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坂元裕二脚本。江口洋介、井浦新主演。国税査察官と天才脱税コンサルタントの対決を描く傑作ドラマ「チェイス−国税査察官」。

こんばんは。デラシネ(@deracine9)です。

本日は、坂元裕二脚本のドラマ「チェイス」をご紹介します。

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坂元裕二・脚本。NHK 土曜ドラマ枠で放送された、2010年作品。

現役の日本の脚本家の中で、今、もっとも輝きを放っている存在。

それが、坂元裕二だ。

近作の「大豆田とわ子と三人の元夫」も、上々の出来だった。

「東京ラブストーリー」から始まったキャリアの中で、特に2010年代以降、時に重厚で陰翳に富み、時に洒脱でコミカルな、演劇性の強い、優れたドラマを手掛けてきた。

「 Mother 」「Woman 」「 anone 」「最高の離婚」「カルテット」などなど、どれをとっても一級品で、ご覧になった方も多いだろう。

そこで、意外に見落とされているのが、このドラマ「チェイス-国税査察官」だ。

 

その理由は、なぜか?

ひとつは、NHK 土曜ドラマという枠で、短期間に放送されたということ。

この当時、NHK はこの枠で、「ハゲタカ」「外事警察」「鉄の骨」などの業界モノを連発していた。

その既成概念の上に、視聴者は「チェイス」をイメージしたに違いない。

 

もうひとつは、NHKオンデマンドなど一部の配信サービスでしか観る事ができなかった、という事情があるのかもしれない。

だが、そんな理由で埋もれてしまうような作品ではない事は、観ていただければ、十分に納得頂けると思う。

 

この作品には、他の土曜ドラマ作品とは別格と言える、脚本の力があった。

 

その力とは何かと言えば、主役だけではない、すべての登場人物たちの、造形の見事さ。

そして、その人物たちが放つ台詞の卓抜したセンス、凝縮された想いの切実さ、そして、その普遍性にある。

その上に、他作品にも優る構成の見事さだ。

一人の個たる人間と、グローバルな世界経済という舞台装置を、練りに練って、驚嘆すべき壮大なドラマに仕立て上げた。

 

1話のうちに、これぞという名シーン、書き留めておきたいほどの、人間性の真実を言い当てたセリフが数多くあるのだ。

そして、回を追うごとに、人間の揺れ動く心情の機微を表象する言葉は、深みを増していった。

物語は、最後の最後まで、目を離せない。

先ほど挙げた坂元裕二作品の、どれにも引けを取らない傑作と言っていい。

 

放送されたのは、2010年。

これが「Mother 」と並行して放送されていたのだから、驚く。

まさに坂元裕二の覚醒を象徴する、記念碑的作品だった。   

 「マルサの女」の亜流ではなく。

国税査察官を映画の題材として最初に取り上げたのは、言わずと知れた伊丹十三監督の「マルサの女」である。

この作品の、画期的なことは言うまでもない。

 

従来、映画やドラマの中で、公務に携わる人間は、水戸黄門の悪代官のようなもので、悪しき存在として取り上げられる事が多かった。

この映画はその常識を覆し、その後、それまでマイナーだった公務部署を題材にしたドラマや映画が、雨後のタケノコのように現れた。

奇しくも2010年、テレビ朝日で米倉涼子を主演に制作された「ナサケの女」も、そのような流れを受けて国税査察官を描いたドラマだった。

しかし、このドラマはその亜流ではない。

脱税を取り締まる役目は同じでも、世界経済のグローバル化や金融ビッグバンと言われる規制緩和の流れを受けて、脱税する側と脱税を取り締まる側を取り巻く状況が、大きく変わったのである。

 

TVドラマの音楽を初めて手掛けた菊池成孔が、自ら歌った主題歌。

退行  菊池成孔

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退行

退行

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 世界を舞台とした脱税スキーム。その驚くべき実態。

「マルサの女」での脱税者は、ホテル経営者や宗教団体といった国内の人間だった。

しかし、もはや、脱税の手口は国境を超えたのだ。

その指南役を演じるのが井浦新だ。

別の名をカリブの手品師。

 

物語の最初のシーン。

舞台は、カリブ海に浮かぶ、バージンアイランド。

ここは、タックス・ヘイブン。

日本語で「租税回避地」。

所得税や法人税がかからない国のことだ。

 

経済は国家間の貿易によって発展するから、グローバル化は止めようがない。

しかし、租税の賦課や司法などの公権力の行使は、国境を超えてその権限を行使することができない。

 「公法は水際で止まる」のである。

その国際公法を利用して、タックスヘイブンという租税回避スキームが創作された。

 

政治家、王族、著名人など一部の富裕層や巨大企業、犯罪組織、テロ集団、先進国の諜報機関までが、ここに資産を集める。

そこからどこかの国の口座へ送金してしまえば、いかなる汚れた金も、税務当局や司法の及ばない処へ消えてしまう。

そして巨大企業は、ここにペーパーカンパニーを作り、法人税逃れに利用している。

タックス・ヘイブンは、高い秘密性を保持し、意図的に多額の資金を集めているのだ。

1990年代以降、世界経済の金融ビッグバンによって、デリバティブ(金融派生商品)などの新しい金融商品が出現した。

近頃よく耳にする FX も、そのひとつだ。

 

デリバティブはいずれも、ハイリスク、ハイリターンの商品ばかりで、素人が手を出すと、たちまち海千山千のハイエナブローカーの餌食になってしまう。

そして、このようなデリバティブ登場の背景にも、タックス・ヘイブンが一役買っている。

 

金融規制の無い取引地の存在が、ヘッジファンドを始めとする得体の知れない投機マネーを膨張させ、市場を左右するほどの大規模かつハイリスクなマネーゲームを可能にし、その結果として世界的な金融危機が幾度も引き起こされているのだ。

 

2008年のリーマンショックの根源にも、タックスヘイブンの存在があった。

結局、その割を食うのは、地道に働いている一般市民なのである。

 

2013年発行された下記書籍の著者は、元国税局国際租税部門のトップとして租税法制整備に尽力し、金融及び租税規制に当たる国際機関の主要メンバーとして、タックスヘイブンやマネーロンダリングの実情を目の当たりにしてきた、世界有数の生き証人である。

租税逃れの驚くべき実態が活写されているので、是非一読をお薦めしたい。

ドラマでは、租税回避又は脱税目的の横文字が次々に現れる。

タックスヘイブン、オフショア・センター、レバレッジド・リース、タックスシェルター、パーマネント・トラベラー、コーポレート・インバージョン…。

 

このドラマが制作された2010年には、まだまだ認知度の低い言葉ばかりだ。

この時期に、このようなドラマ制作を企図したNHK のスタッフは、さすがだと言わざるを得ない。

この記事で紹介した書籍や外部サイトは、すべてこのドラマ制作後に書かれたものだ。

 

このドラマに登場するような脱税、租税回避スキームは、現実のものとして存在する。

「タックスヘイブン」は、その後「パナマ文書」の流出によって、大々的に報じられることになる。

その手のニュースは、坂元裕二が調べ上げた事実と、ほぼ変わりがないものだった。

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坂元裕二、渾身の取材術、脚本術。

ドラマ制作の前年、坂元裕二はNHK のスタッフと、カリブ海の租税回避地、タックスヘイブンとされている島に、現地取材へ行き、その実態を目の当たりにした。

まさにポツンとある一棟のビルに、何万という巨大企業の本店が、ペーパーカンパニーとして存在していた。

 

国内では、まず国税局長官に取材した。

これは、NHK というブランドの為せるワザか。

そして、査察官とも毎日飲みに行ったようだ。

そのうちに、少しずつ、内輪の話を仕入れていった。

 

もちろん、当時ある限りの資料を読み込み、脱税のスキームを考えた。

このドラマの鍵は、なんと言っても脱税スキームの面白さにかかっていると思ったからだ。

 

人物を描くにあたっては、個と個の対立を重視した。

これは、よくある手法だが、二人の接点の始まりから、その関係性の終末に至るまで、これだけ見事なドラマは観たことがない。

井浦新(当時芸名はARATA )と江口洋介。

これだけ魅力のある役者ふたりがいて、存分に持てる力を注ぐことができただろう。

 

世界と個の存在は混沌として交じり合い、抗いようの無い宿命に、最後までふたりは翻弄され、結末を迎える。

 

勧善懲悪、予定調和、その他もろもろの、ありきたりな脚本構成術とは一味も二味も違う、そんなストーリーテラー・坂元裕二が、ここでも躍動している。

ここらが、令和の水戸黄門「半沢直樹」との大きな違いだろう。

(取材方法などの記述は、前掲「脚本家・坂元裕二」を参考とした。)

ストーリーの鍵となる、薔薇の蕾。

ARATA 演じる、天才脱税コンサルタント、村雲修次。

片腕が義手のその男は、木彫りの黒い薔薇の蕾を、もう片方の手の中に握りしめている。

ここに、彼の謎の生い立ちが秘められている。

 

薔薇の蕾…。

映画好きの方には、すぐにピンとくる。

「市民ケーン」のオーソン・ウェルズが呟く、謎の言葉だ。

村雲にとって、薔薇の蕾は、この男の半生を貫く希望の灯であり、また自身の破滅を導きかねない諸刃の剣であった。

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この村雲という男、ARATA という役者のはまり役と言っていい。

何かしらアクの強い、陰のある役柄を演じて、今、最高のアクターだろう。

大河ドラマ「平清盛」で、崇徳上皇を演じるような器は、彼しかいない。

TBS ドラマ「アンナチュラル」でも、同僚から毛嫌いされる偏屈者で、自分の恋人を殺され、わずかな手掛かりをもとに、真犯人を追い続ける、そんな役だった。

 

それでは「 アン・ナチュラル」の主題歌。

Lemon       米津玄師

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Lemon

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「泣いた赤鬼」が好きだった熱血漢。

江口洋介が演じる、もうひとりの主役、国税査察官・春馬草輔。

査察官という仕事に誇りを持ち、日夜、脱税者を狙って駆けずり回る。

仕事バカゆえに、愛する妻や娘と過ごす時間もない。

 

そこに、従来の脱税スキームをはるかに超えた強敵が現れる。

村雲の描いたスキームに巻き込まれる形で、春馬はドン底に叩き落とされる。

 

村雲の魔の手は、それだけでは終わらない。

偶然知り合った風を装い、さりげない会話の中に、春馬が叩き上げてきた査察官としてのプライド、正義感、それらに揺さぶりをかけてくる。 

「貴方には、この世界を憎む権利がある。」 

村雲が春馬に投げかけた言葉だ。

しかし、この言葉は、村雲が背負ってきた十字架でもある。

春馬は、アイデンティティの崩壊寸前にまで追い詰められる。

そして、彼の愛した家族も、尊敬していた上司も、彼を見捨ててゆく…。

 

村雲が春馬に教えたジャック・フィニィの SF小説「盗まれた街」。

 

追い詰められる春馬。

だが、彼は投げなかった。

これまで、そうやって生きてきたように、しつこく我慢強く、よく仕込まれた警察犬のように、粘りに粘った。

そして、ようやく見えなかった敵の輪郭が浮かんでくる。

 

すると彼は、村雲が本当はどういう男だったのかを、まるで自分の事のように考え始めるのだ。

何が村雲をそうさせたのか? 

村雲の真の目的は何か?

 

やがて両者は、最期の対決の時を迎える…。

 

村雲という生活臭の無い男が放つ、アンチモラルなオーラとは対照的に、春馬は一介の勤め人であり、つましい庶民としての幸福を支えに生きてきた男だ。

その相反するふたりを仲介するのが、グローバル経済の暗部が生んだ、国際的な脱税スキームだった。

 

両者は、脱税する者とそれを追う者という関係性を超えて、あまりに残酷で無慈悲な、この世界の亀裂を垣間見させてくれる。

その意味で、このドラマは、先行きの見えない現代社会、そこに生きている我々の生き様を、そのままに活写した作品とは言えないだろうか。

 

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江口洋介と坂元裕二は、「東京ラブストーリー」以来のタッグで、プライベートな親交も深いと聞く。

2000年前後から江口の役の幅は広がり、「チェイス」以降、しっかりと社会派ドラマにも、自分の立ち位置を固めていった。

このドラマでは、村雲という異端児に挑戦する春馬という男を真正面から演じ切り、まさに脂が乗り切った、同世代の役者の中でも突出した存在感が、輝きを放っていた。

 

ドラマ「ひとつ屋根の下」より。

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サボテンの花

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まだまだあるドラマの魅力。

①全編を流れる菊池成孔の音楽

あの菊池成孔が手掛ける音楽がともかく素晴らしい。

先程の主題歌を含む、オリジナル・サウンドトラックのCD が、 市販のDVD BOX に特典として附属している。

下のアルバムには未収録の曲もあり、これは並のサウンドトラックとは違い、すべての曲がドラマの魅力を最大限に引き出す効果をもたらしている。

Regression 退行

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 ②脇を固める豪華共演陣

斎藤工、麻生久美子、田中圭、奥田瑛二、中村嘉葎雄、佐藤二朗、木村多江、etc …。

このメンツを見ただけでも、観たいと思わないだろうか?

 

特に、今や超売れっ子の斎藤工と、麻生久美子の役どころは見逃せない。

佐藤二朗は、当時まだ無名に近かっただろうが、今やNHK ドラマで主演を務めるまでになった。

他にも、村雲(ARATA )の相棒で、中国系のアジア人、ジョニー・ウォンを演じる大浜直樹がいい味を出している。

BOX の特典映像で、彼のインタビューを見ると、彼は無名の劇団員だった。

彼の公演に足を運んだNHK のスタッフが、オファーを出したらしい。

もちろん、ドラマ初出演だった。

チャイニーズのような舌ったらずの日本語が印象的だが、彼は純粋な日本人だ。

 

(1)カリブの手品師

第1話 カリブの手品師。(NHK オンデマンド) 

③家族の物語。

このドラマは、社会派エンターテイメントとしても一級品だが、また家族の絆を描いた物語としても秀逸である。

村雲という一匹狼にも家族があり、父母がいる。

春馬という仕事バカの親父と娘の関係は、事件をきっかけに大きく揺らいでゆく。

 

そして、元経団連会長で、流通のカリスマと言われた父・檜山正道(中村嘉葎雄)と、その子・檜山基一(斎藤工)の関係性も興味深い。

基一は、父の財産、総額六千億円にかかる相続税のために、村雲との接触を持つのだ。

坂元裕二のホンは、大がかりな脱税スキームだけではなく、個としての人間の生活感情にも寄り添うことを忘れない。

 

(2)イミテーション・ゴールド

第2話 イミテーション・ゴールド(NHK オンデマンド) 

Mother [DVD]

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「チェイス」と同時期に放送されていた坂元裕二の傑作ドラマ。

Mother 1 (河出文庫)

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特権階級や富裕層を狙った、合法的税金逃れの現在地。

ドラマについては、もはや多言を要しない。

ご覧になったとしたら、よくこんな脱税手口を考え出すものだと感心されるだろう。

しかし、「現実は小説より奇なり」。

 

先にご紹介した書籍をお読みになれば、つい最近明らかになった「パナマ文書」や「パラダイス文書」に見るタックスヘイブンを利用した脱税の手口は、ほんの氷山の一角で、実態は何も解明されていないことに気づかれるに違いない。

 

大元からして、脱税とは、平凡な一般市民とは縁遠いもので、オーソドックスな脱税手法ですら一部の金持ちのおどろおどろしい世界であり、「マルサの女」が30年前にこじ開けた、異世界の風景であった。

 

経済が豊かになれば、世の中の誰もがその恩恵を受けるはずである。

しかし、現代においては、持てる者は ますます豊かになっていき、それ以外の持たざる者との格差は激しくなるばかりだ。

(3)パーマネント・トラベラー

第3話 パーマネント・トラベラー(NHK オンデマンド) 

 

身近に存在する脱税者とその擁護者。

ヘッジ・ファンド。タックスヘイブン。オフショアセンター…。

富めるだ者だけが、それらを利用し、資産を増やす仕組みが出来ている。

 

その仕組みを利用する者は、すごく身近にもいて、あなたが手にしている機器を作って売りさばいている大企業だったり、応援している野球やサッカーの選手だったり、世界的音楽家やアーティストであったりするかもしれない。

金持ちには、タックスヘイブン発の、そういう脱税への案内状が届くからである。

 

また、そこには闇社会の首領も、マフィアも、大物政治家も、主要国の諜報機関も絡んでいるから、「タックスヘイブン」「ヘッジ・ファンド」のどこが悪いのか、合法的な節税に何の問題があろうか、みたいな論調の金融機関や経済アナリストがたくさんいたりする。

 

理由は単純だ。

経済アナリストや金融機関は、その手口に乗っかって、商売をしているからである。

仮に、世界中の税務当局が力を合わせて、租税回避や脱税の取り締まりをやろうとしても、肝心の租税回避スキーム自体が、回り回って先進国の大きな収入源となっているから、どうにも手の付けようがない。

先進国の国家レベルの抵抗の前に、もろくも潰されてしまうことも多々ある。

タックスヘイブンは、まさに魑魅魍魎の跋扈する世界なのである。

 

だからこそ、それを利用する天才脱税師が現れても不思議はないわけで、現実は映画やドラマの世界をはるかに超越している。

それでも、各国の課税当局はこれからも必死で闘うことだろうし、理想の完遂に全力を傾けて欲しい。

(4)復讐(ふくしゅう)

第4話 復讐(NHK オンデマンド) 

 

ツケを回されるのは一般庶民。

それともうひとつ。

重要なのは、我々庶民が、最低限そのような現実に目を開いて、問題意識を持っておくことだろう。

実際に、世界の富裕層は、全体の1%に過ぎず、その1%が世界中の富の半分を所有し、140億ドル、日本円で  一京五千兆円の資産を持ち、その額は増加の一途をたどっているという。

(この数字は、前掲「ルポ タックスヘイブン」によった。)

 

一握りの富裕者層によるやりたい放題の税金逃れの結果、繰り返し引き起こされる世界金融危機の代償として、そのツケを払わされるのは、誰か?

富裕層に代わって税金を払い公共財を賄わされ、不良債権を抱えた大企業の救済のため、多額の租税負担を押し付けられるのは、日々マジメに働いて、あくせく暮らしている、残り99%の中間所得者層ないし低所得者層なのである。

(5)史上最大のスキーム

第5話 史上最大のスキーム(NHK オンデマンド) 

 

さて、ここまで坂元裕二のドラマ「チェイス」の魅力と、その重要なファクターとなった租税回避、脱税スキームについて述べてきた。

 

私自身、このドラマに触発されて、一から経済や金融の学習を始め、未知の世界に新鮮な驚きを覚えたものである。

私にとっては、ひとつの作品から、新しい地平が開けた、貴重な経験だった。

読者諸氏には、ドラマはもちろん、想像を絶する世界金融のリアルを知っていただきたく、この記事を書いた。

 

繰り返し述べるが、これは小難しい世界経済のことを知らなくとも、十分に堪能できる、一級品のエンタメドラマである。

並のテレビドラマではないことは、保証する。

観ていない方は、是非、観ていただきたい。

無料期間中に、NHK オンデマンドですぐに視聴出来る。

絶対に面白くないはずがないこと、うけあいだ。

 

それでは、最後の曲。

おやすみなさい。

ジェラシー  井上陽水 with  菊池成孔     

ジェラシー

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ジェラシー (Remastered 2018)

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(6)カリブの黒い薔薇(ばら)(最終回)

最終回 カリブの黒い薔薇(NHK オンデマンド)

J・ROCKの隠れた名曲PART5。やっていいのか、コロナ禍五輪。

Dice

こんばんは。デラシネ(@deracine9)です。

本日は、「J・ROCK の隠れた名曲 PART 5。やっていいのか、コロナ禍五輪」と題してお送りします。


それでは、1曲目。

仲井戸麗市チャボのメインヴォーカルで。

ノイローゼダンシング ~チャボは不眠症~  RCサクセション

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この曲は、初めてRCサクセションが TBSの「ザ・ベストテン」に出演したときの、シングル「サマーツアー」のB面に入っていた。

私はシングル盤を買って、もっぱらこっちの方を聴いていた記憶がある。

ノイローゼ・ダンシング(CHABOは不眠症)

ノイローゼ・ダンシング(CHABOは不眠症)

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誰のための、何のための五輪なのか?

ホントにやるつもりらしいですね、オリンピックとパラリンピック。

感染者のリバウンドは、確実に増加しています。

インド、デルタ変異株の不安も、日々大きくなっています。

この調子で行くと、間違いなく緊急事態宣言下の開催になるでしょう。このパンデミック下に、誰のため、何のためにやるのか?

 

①アスリートのため。

②日本国民のため。

③世界平和のため。

④それ以外の目的のため。

 

まず①。

世界的にこれほど注目される大会はないのですから、メジャーではない競技や、パラリンピックに出場権を持つ選手の皆さんは、とりわけ開催して欲しいでしょう。

これは当たり前の話。

 

②。

日本国民は、半世紀振りの東京五輪、関心のある人も多いでしょう。

世界のスポーツの祭典ですから、期待しても不思議ではない。

スポーツを普段は見ないという人も、楽しめる。

 

ロンドンやリオの大会は、私もたくさんの競技をテレビで見て感動しました。

しかも今回は、久しぶりに、好きな野球が種目に入っているので、期待は大きかった。

 

反面、東日本大震災や福島原発事故の影響を受けた人びとの暮らしは、まだまだ前途多難の状況にあります。

 

復興より先に五輪なのか?

この疑問は、東京大会招致の時点から、思うところはあります。

被災地の人びとは、本当に復興五輪なるものを、諸手を挙げて歓迎しているだろうか?

 

 

2曲目。

冷血(コールド・ブラッド)  甲斐バンド

冷血(コールド・ブラッド)

冷血(コールド・ブラッド)

  • 甲斐バンド
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この曲は、舞台照明が画期的で、その後、多くのミュージシャンが模倣した。

ミスチルの桜井和寿、つんくなど、甲斐バンドを聴いてロッカーに憧れたヤツは、これをやってる。

桜井なんかは、甲斐バンド、浜田省吾、エコーズ、サザンなど、80年代のJ・ロックから、すごく影響を受けているらしい。

 

桜井が高校の時組んでいたバンド名が、「ビートニク」。

甲斐バンドファンには非常に分かりやすい。

甲斐バンドのオフィシャル機関紙が「ビートニク」だったから。

私なんかが、ミスチルがよくわかるのは、そのせいだろうね。

ビートニクの本来の意味については、下の記事に書きましたので、どうぞ。

今、世界は?

話を戻します。さきほどの③。

今、世界はどうでしょう。

アメリカのトランプ政権は、ようやく去ってくれましたが、ロシアや中国との対立の溝は深まっています。

ロシアのプーチン政権は、ソビエト連邦時代に逆行したかのような独裁を誇っていますし、中国の一党独裁による弊害は、今、目に余るものがあります。

香港、台湾、ウィグル自治区への政治介入、人権蹂躙と他民族へのジェノサイドは、もう黙視してはいられない段階にまで来ていると思います。

スポーツの効能を、これまでも私はこのブログで書いてきました。

人間の生存のための闘争本能を、スポーツは平和的に昇華し、友好への足掛かりともしてくれる。

しかし、今、それが正常に機能するでしょうか?

私は、そうは思えませんね。

①から③までのすべてに言えることですが、今、世界はパンデミックの坩堝です。

 

国や地域の異なる文化を背負った人びとが交流して親睦の輪を深めるに、今ほど不適切なタイミングはない。

日本人の価値観で定めたコロナ禍の生活ルールに、各国の選手たちが違和感なく従えるはずがない。

親交どころか悪感情を抱く元にもなりかねない。

そうは思いませんか?

さきほど触れたミスチルの曲。歌詞に注目。 

ニシエヒガシエ  Mr.Children 

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words & music by Kazutoshi Sakurai

ニシエヒガシエ

ニシエヒガシエ

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この曲は、1998年放送の「きらきらひかる」 という法医学ドラマの主題歌でした。

最近の法医学ドラマでは、野木亜希子脚本「アンナチュラル」がヒットしましたが、「きらきらひかる」はホン書きの大先輩、井上由美子脚本になる傑作ドラマ。

 

深津絵里、松雪泰子、鈴木京香、小林聡美の4人の食事シーンから毎回始まるというのが印象的な、いいドラマでした。

今売れっ子の脚本家・坂元裕二は、「東京ラブストーリー」のトレンディドラマ路線から外れ、脚本書きをやめていた時期にこれを観て、ドラマの面白さに改めて覚醒したそうです。

五輪ありきの選択は何ゆえか?

また話を戻します。最後の④。

これは、マスコミがよく取り上げる、利権金権がらみの話。

皆さんもネットや週刊紙などでご存知でしょう。

これも掘っていけば、腐った闇の問題は、キリなく出てきそうです。

しかし、これは今に始まった事じゃないので、以下の記事でご覧頂ければよいかと思います。

今まで取り上げた①から④まで、それは優先順位の問題でもあります。

どれと言わず、どれもが目的であるでしょう。

しかるに、この五輪での最大の眼目は、この4つに加えて、さらにコロナ禍という⑤番目の問題が加わったことです。

 

新型コロナのワクチンの有効性と安全性には、まだ賛否両論あって当然なのです。

安全性の十分な検証には、まだまだ時間が必要だったはず。

しかし、ウィルスはそれを待ってはくれません。

結果的に、世界的な接種状況を踏まえたGOサインだったのではないかと勘ぐりたくなります。

 

結局は自己責任で判断するしかなく、他国では強制さえ行われています。

国は、接種が当然のように進めています。

老人には未来があまり残されてはいないし、重症化率も高い。

圧倒的に接種するという選択が、普通かもしれない。

 

しかし、若者は重症化率が低かったことから、いまだ拒否反応は大きい。

これも、今後のデルタ変異株の流行次第では、わからないですね。

こんな状況下で、オリ・パラリンピック強行という結論です。

私的には、ワケがわからない。

世界中から選手が集まる、スポーツの祭典なのですよ。

普通に国内で興行されている、野球やサッカー、演劇、コンサートとは、ワケが違う。

どこからどう考えても、この時世に世界中の選手を集めて、スポーツ大会を開く時ではないと思います。

致死率が低いから騒ぎ過ぎ、というコメントをよく見かけますが、これは防げる人災なのですよ。

交通事故とは意味合いが異なる。

 

私に言わせれば、①から④までのすべての目的を放棄して、この厄災を回避するに専念する事、これが最、最、最優先事項と思いますがね。

ところが、政治家はそうは考えないようです。

何が何でも、④は達成するつもりらしい。

 

菅総理は、安全と安心、それだけの言葉をえんえん繰り返しますが、何の説明にもなってないのではないでしょうか?

言っときますが、私は〇〇党員ではありません。

どこかの党首と同じ事を、聞きかじりでお話ししている訳じゃない。

何が安心で安全なのでしょうか?

結果的にどうなるかは、フタを開けなければわかりません。

地獄の釜の蓋が開く、その可能性が十分にある。

イチカバチカのサイコロ勝負。

バクチです。

 

このイカサマ勝負が、五輪貴族の荒稼ぎのために行われる。

国民のイノチをバクチに賭ける。

これってアリでしょうか?

 

反対の目が出たら、どうするつもりでしょうか?

唯一、ナレーションされている、無観客開催。

ほかに、これといった対策はあるのでしょうか?

無観客。それだけで乗り切れると、本気で思っているのでしょうか?

 

ダイスを転がせ  The Rolling Stones 

Tumbling Dice

Tumbling Dice

  • ザ・ローリング・ストーンズ
  • ロック
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Tumbling Dice [Explicit]

Tumbling Dice [Explicit]

  • Universal Music LLC
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いかさまだらけのルーレット  長渕剛 

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いかさまだらけのルーレット

いかさまだらけのルーレット

  • 長渕 剛
  • J-Pop
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SUPER LIVE IN 西武球場 (24bit リマスタリングシリーズ)

SUPER LIVE IN 西武球場 (24bit リマスタリングシリーズ)

  • アーティスト:長渕剛
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「ただじゃ転びやしませんぜって、非常事態ってやつも歓迎です、五輪へ猛ダッシュです」

ミスチル「ニシエヒガシエ」の歌詞どおりですよ。

おいら、地獄へ道連れゴメンだね。

イカサマ五輪貴族野郎どもは、コロナでもデルタでも、すぐにご入院して退院あそばす。

 

だが、貧民街の精神貴族のおいらには、そんな特権はどこにもありゃあしない。

ロシアンルーレットの弾が命中すれば、ウィルス変異株と道連れにオダブツでやんすよ。

 

いい加減、金と欲得のための政治は、やめてほしいもんでござんす。

「屁」のようなヤツらの企みに加担して死ぬのは、アンタたちですよ。 

 

SCARS          XJAPAN 

SCARS

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日本人は、変わりませんね。

進め、一億、火の玉だ🔥。

聖戦だ、己れ殺して国生かせ。

五輪もまた、そうなってます。

日本人が大嫌いな安倍晋三君。

ところで。

またまたあの前総理は、 はちゃめちゃな事を言ってます。

五輪に反対する人は、「反日」だそうです。

そうすると、日本人の何割かの人は、日本人の敵という事になってしまいますね。 

 

 なぜに、この人は自国民を分断するような事を、平気で言うのでしょう。

以前の「こんな人たちに負けない」発言もそうです。

日本人を一番嫌いなのは、まさに、この人ではないか、と思われるのでございますね。

おつむの悪いのは、以前より承知のうえですが、もう手がつけられませんね。

若い皆さん、お気の毒に、あなた方は、あと20年くらいはこの方の支配を受け続ける可能性があるのです。

 

日本人は、先輩に弱いです。

たった一学年後輩であっても、使いっ走りをさせられ、命令に背く事が困難です。

平安時代も、院政というシステムがあり、天皇の上に権力を持つ上皇がいました。

明治、大正、昭和にも、戦前は元老という総理大臣より権力を持つ総理経験者が存在しました。

 

元老は、長州出身の人が多かった。

この人もそうです。

すでに、自分の後継の菅総理をさしおいて、次の総理候補を名指ししておられます。

早くもキングメーカー気取りですね。

 

検察は、権力者への えこ贔屓をやめて、早く立件してほしいもんです。

安倍晋三に利用された黒川元検事長も、買収資金1億5000万を渡された河井克行夫妻も、立件され、あるいは有罪判決が出ているのに、カネを出して買収を煽ったに違いないと思われる、当時の首相が何のお咎めもない、法で裁けないというのは誰の眼にも理不尽でしょう。

長々とお話してきましたが、皆さんは、どう思いますか?

私がここで何を発言しようと、大本営の特権階級の方々は五輪を開催されるでしょう。

私は、ひたすらに、全世界発 コロナ変異株のパラシュート部隊が、日本へ投下されない事を祈るばかりです。

 

それでは最後の曲です。

薄汚い野郎の話ばっかりでしたから、この美しいピアノの音色を聴いて、皆さんの魂を浄化できれば幸いです。

それでは、お休みなさい。

 

Unfinished      YOSHIKI 

X JAPAN 歌詞入りバージョンはこちら。

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UNFINISHED

UNFINISHED

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BLUE BLOOD 

令和のヒット曲「うっせいわ」にみる心のありか。

 Children 

こんばんは。デラシネ(@deracine9)です。

コロナな日常は相変わらずの、この国ですね。

 

久々、ブログを書きたくなったのは、この曲のせいです。

うっせいわ Ado 

うっせぇわ

うっせぇわ

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この圧倒的な自己肯定感、何でしょう?

メッセージとも違う、自我の防衛本能が見えますね。

 

一見、尾崎豊っぽい大人社会へのアンチテーゼの顔してますけど、決して表立った行動には出ませんね。

校舎の窓ガラスを割って回ることも、バイクを盗むこともしない。

世間からドロップアウトするわけでもなく、はみ出すことはしない。

  

優等生なんですよ。

そう教えこまれ、信じこんで、遅すぎる反抗期を迎えたのですね。

自分は天才、凡庸な奴とは違うと断言するが、それは自信の無さの裏返しでもある。

心のヤイバは、内攻するばかり。

コロナ不況が暴れ回る時代に、ホンネは閉ざすしかないですよ。

 

言っちゃえば、社会人失格、人間失格。

吐き出す場所は、親や友人、恋人でもなく、同僚や上司なんてとんでも無い。

それが、ネットの裏垢になり、模範人間のダークサイドとなって、心の出口を探す。

そして、ネット上の言葉の暴力が弱者への匿名攻撃となって、炎上を生む。

 

いじめも、同じ構造なんじゃないでしょうか?

表面上は、優等生。

その裏側では、ターゲットを探す狩人。

彼らは必ず群れをなす。

不特定多数による弱者への攻撃は、匿名と同じでしょう。


歌は世につれ。

この曲くらい、今の社会を映し出した鏡はないでしょう。

 

うっせぇわ

うっせぇわ

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うっせぇわ (Giga Remix)

決して、メッセージソングではない。

いろんな人がこの曲について語ってます。

しかし、繰り返しますが、どうみても、これはメッセージソングではないですよ。


大人や社会の規範に毒を吐く、これは青春期通有の心理で、歌詞の一部に共感できるという若者は、当然ながら大勢いるはず。

しかし、この曲の毒は、毒のための毒、ケチをつけるためのケチ。

 

他者を否定することにより、自分の存在価値を肯定しようとする、いわば破壊衝動。

そこには、夢も、希望も、ありゃしない。

 

青春とは、そんな安っぽいアダ花とは異なるもの。

明日への夢があるから、それと真逆の社会の規範に抵抗する。

望むもの、願うものがあるから、叛逆する。

輝けるもの、真実と呼べるものへの希求があるからこその、プロテストなんですよ。

 

私はこの曲にケチをつけているんじゃないのです。

むしろ、社会を映し出すカルチャーとして、真っ当と言えるでしょう。

経済も社会もコロナで打撃を受け、ストレスフルにならない方がどうかしている。

 

しかし、問題はそれだけでは無い。

コロナ禍は、ある意味で人災の側面もある。

おっしゃるとおりの、みっともなく、くだらない世の中だ。

 

私は、このような鏡を生み出した社会を、恥ずべき事だと思っている。

こんなお粗末な社会を作った、大人たちの一人として、責任を感じる。

 

子供たちが「うっせいわ」と歌うのを聴くと、人の世が、生きることそのものが、うざく、くだらないものだと言われているような気がする。

 

この歌をニヤけてカラオケで歌うんじゃねえよ、いい年のおまえら❗️

 

 

よーく、尾崎豊の「卒業」と比べてみてください。

どこがどう違うか、感じてみてください。

これが、私のメッセージです。

卒業  尾崎豊

卒業

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卒業

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十七歳の地図

パンデミックに思う神の不在 PART 2 。怨霊となった菅原道真。

こんばんは。デラシネ(@deracine9)です。

本日は、パンデミックに思う神の不在 PART 2 をお送りします。

Dazaifu

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コロナ禍のうちに、受験シーズン真っ盛りの季節を迎えた。

寒波とともに、学生諸君には、試練の冬であろう。

 

君たちは、若い。

失敗を、怖れることはない。

何度でも、また立ち上がることができる。

 

超えてゆけ、そこを。超えてゆけ、それを。

拓郎が歌っているよ。

 

人生を語らず   吉田拓郎

人生を語らず

人生を語らず

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今はまだ人生を語らず [12" Analog LP Record]

 

本題に入ろう。

学問の神様、菅原道真。

福岡県太宰府市にある、太宰府天満宮。

学問の神様とされる菅原道真が祀られている。

 

道真と言えば、平安時代、政敵・藤原時平の讒言によって、太宰府の地に左遷された悲運の人物として知られる。

死後は、都に怨霊として現れ、時の権力者に大いに怖れられた。

 

その道真の霊を祀るため、都には、現在の北野天満宮が創建された。

これが全国各地にある天神様の起源である。

 

以上の事は、歴史の教科書的な知識として、ご存知の方も多いだろう。

では、道真はどんなかたちで怨霊の姿を現したのだろう?

そして、どんな祟りを及ぼしたのだろう?

 

今回は、パンデミックにおける神の不在 PART 2 。

日本人の道徳意識の変遷を、平安時代の貴族社会を例として考えてみよう。

 

Dazaifu Tenmangu shrine

 

怨霊の出現。 

899年。菅原道真は、醍醐天皇のもと、 右大臣に任命される。

学者の家柄である菅家からのこのような出世は、極めて異例の人事だった。

しかし、道真の後ろ盾であった宇多上皇が出家すると、道真は中央政界で孤立を余儀なくされる。

 

すると、たちまち皇位を転覆しようとしているとの嫌疑をかけられ、太宰権帥(だざいごんのそち)という位に落としめられ、九州の太宰府に流されてしまう。

道真は、配所の地で困窮した生活を強いられ、左遷から二年後の、903 年に世を去った。

 

それからまもなく。

ある夜、天台座主(天台宗比叡山延暦寺の筆頭僧のこと)尊意の房(御座所)に道真の霊が現れた。

 

霊は、道真の報復を怖れる左遷の首謀者達が、尊意に行わせていた修法(いわゆる加持祈祷、お祓い、厄除けの秘法)を止めるように、要請した。

 

しかし、尊意はそれを断ったので、怒った霊は勧められた柘榴を口に含み吐きかけるや、柘榴から火の手が上がり、妻戸が焼かれた。

尊意は直ちに験刀で火の手を消しとめた。(北野天神縁起)。

 

そしてまたある日。

宮中清涼殿に、雷神が襲った。

居並ぶ者の中で、藤原時平ひとりが太刀を抜いて雷神と戦った。(「大鏡」時平伝)。

 

その後、時平は重病に陥り、僧・浄蔵を呼んで祈祷をさせた。

そこに浄蔵の父・三善清行が居合わせたところ、時平の両耳から蛇の頭が現れ、道真の声で祈祷の中止を訴えた。

浄蔵が祈祷を止めて退出すると、時平はたちまち息絶えた。(「扶桑略記」所収「浄蔵伝」)。 

その後、時平の子孫は、相次いで夭逝し、時平の家系は途絶えた。(「大鏡」)。

北野天神縁起を読む (歴史と古典)

北野天神縁起を読む (歴史と古典)

  • 発売日: 2008/10/01
  • メディア: 単行本
 

冥界からの叫び。

923年。醍醐天皇の従兄弟・右大臣、源公忠が頓死して、三日後に蘇るという事件が起きた。

公忠は、冥府で道真公と対面し、醍醐天皇への怒りの声を聞き、蘇生した。

醍醐天皇は それを知ると、道真の官位を復して「正二位」を贈り、さらに年号を「延喜」から「延長」に改めた。(「江談抄」)。

 

930年。またも宮中清涼殿に落雷があり、死傷者が出るという事件が起きた。

清浄なる宮中に死者が出たことに衝撃を受けた醍醐天皇は病臥し、その三ヶ月後には崩御された。(「北野天神縁起」)。

これらの偶然の事件の積み重ねにより、道真の怨霊は、火雷神と見做されるようになる。

 

941年。平将門や藤原純友の乱が起き、宮中が大混乱していたその頃。

日蔵上人(道賢)なる者が、息絶えたのち、十三日後に蘇生するという事が起きた。

日蔵上人は、冥界の首領となった菅原道真に会い、地獄めぐりをした。

 

道真は、現世の災害や合戦などの災厄は、自分の支配下の悪神どもが起こしていると言った。

それから日蔵上人は、道真を左遷させた罪で懲罰を受けている、醍醐天皇や臣下にも会い、現世を救うための法要を懇願された。(「扶桑略記」所収「道賢上人冥途記」)。

 

その後も道真の怨霊は、生きた人間の口を借りて、神殿を作るように託宣を述べた。

これが、北野天満宮の始まりとされることになった。

 

北野天神縁起〈1-9〉 (1927年)

 

 平安朝の貴族社会を襲う、荒ぶる神々。

この話の初めの方で、藤原時平の話をした。

この男が、道真を追放した罪科を少なくも感じ取り、気に病んでいたという証拠がある。

 

それは、道真の報復を恐れて、あらかじめ比叡山延暦寺トップの僧侶に、怨霊退散の祈祷を依頼し、実行していた事である。

それはすなわち、死後の霊の報復を、心底恐れていた証である。

 

つまり、時平にとって、死んだ道真の報復は、妄想でも気の迷いでも無く、紛れもなく時平の心中に存在する、死霊への恐怖であったのだ。

 

歴史上に怖れられた日本の怨霊は、菅原道真だけではない。

崇徳上皇や平将門など、国土に祟りを為したとして畏怖された怨霊は、その後の歴史にも登場する。

 

怨霊になった天皇 (小学館文庫)

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  • 作者:竹田恒泰
  • 発売日: 2013/01/21
  • メディア: Kindle版
 

神々への畏れを失くした時代。

そして、令和の時代。

現代社会は、科学技術と文明の進歩によって、多くの謎を解明してきた。 

その反面、謎のヴェールに包まれていた、多くの神秘を、白日のもとに晒した。

 

 しかし、この世界の神秘はさらに深まるばかりで、未知の領域は消えるどころか、否応無しに増えるばかりである。

 

然るに、多くの人間たちは、この世界のすべての事柄は、人間の叡智によって解決できると、とんでもない勘違いをするようになった。

 

今、上司に追い詰められ死を選んだ部下の祟りを怖れる者が、存在するだろうか? 

 

山口県のとある政治家は、どんなに厚顔無恥の大嘘を非難されても、恬として恥じるところがない。

その男は、公文書改ざんで自殺した男の怨霊に悩まされることも無く、相も変わらず 嘘をつき続け、政界に居座ろうとしている。

  

想像するに、その男のアイデンティティは、明治維新を成し遂げた長州の政治家の末裔だという、その一点に過ぎない。

その程度の知識と教養の人物をもって、日本の舵取りをやらせてきたのだから、日本人のお人好しには呆れるばかりだ。

 

幕末に生きた長州の志士達は、このような不出来の破廉恥漢を末裔に持った事を、あの世で大いに慨嘆しているに相違ない。

 

Ume beauty.

 

菅原道真の飛梅伝説。

道真には、もうひとつ、有名な故事がある。

左遷が決まって任地に赴く前、道真は、自邸・紅梅殿で大切に育ててきた梅の木に向かい、歌を詠んだ。

 

東風(こち)吹かば 匂いおこせよ梅の花 主(あるじ)なしとて春な忘れそ

 

その後、この梅の木は、道真を慕って太宰府の地へ 飛んで行ったという。

これもまた「北野天神縁起」にある逸話である。

 

その木が、太宰府天満宮には実在する。

元は、道真の配所に在ったものを、道真の墓所であった寺の跡に、太宰府天満宮が造営されると、その本殿前に移植されたという。

 

しかし、ここにも付けたりがあって、実際は、道真に縁の者が旧邸の梅の木を株分けして、その苗木を太宰府の地へ持ってきた、とも言われる。

 

この後日譚は、歌舞伎や人形浄瑠璃の「菅原伝授手習鑑」の主題に取り入れられ、現代も上演される著名な演目のひとつとなっている。

 

飛梅  さだまさし 

こちらは、ライブ・バージョン。

飛梅<とびうめ>

飛梅<とびうめ>

  • さだまさし
  • 歌謡曲
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風見鶏

風見鶏

  • さだまさし
  • 歌謡曲
  • ¥1935

 初期のさだまさしは、名曲が多く、秘かに好きだった。

他に「私花集」というアルバムもよく聴いた。

私花集<アンソロジイ>

私花集<アンソロジイ>

  • さだまさし
  • 歌謡曲
  • ¥2343

 

現代人における想像力の欠如。

前回に続き、繰り返し言うが、私は、道徳教育を行えとか特定の宗教を信ぜよなどと言っている訳ではない。

また、過去の迷信を、復活せしめんとしているのでもない。

 

ここまで見てきたように、悪事を為せば天によって誅罰されるという自然な計らいが、素朴な信仰によって、人間の心に生きていた時代があったのだ。

 

しかし、その信仰は過去のものとなり、現代人は、それに替わる新しいモラルを持っているとは言い難い。

 

神々の死によって、日本人の素朴な道徳的感情に、ポッカリと穴が空いた。

 

そのモラルの消失に乗じて、この十年ほどで、大日本帝国時代の神祇信仰を復活せしめんとする動きが活発になり、政治に大きな影響力を持ってきた。

そして、ネトウヨ、ネット右翼という奇形の政治活動家が登場した。

日本会議の正体 (平凡社新書818)

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  • 作者:青木 理
  • 発売日: 2016/07/08
  • メディア: Kindle版
 
ネットと愛国 (講談社+α文庫)

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  • 作者:安田浩一
  • 発売日: 2015/12/04
  • メディア: Kindle版
 

だが、そんな時代の波に呑まれてはいけない。

個を大切にする、新しいモラルのあり方を求めて闘わなければ、世の中はよくなるはずがない。

 

太古の昔にも増して、世界は不可思議な謎に満ちている。

 

しかし、現代人の想像力は次第に貧困になり、この世界の裏側に潜む神秘を感じ取る能力が、薄れてきているのではないだろうか?

 

現今のパンデミックにしても、そうである。

過去の歴史を振り返れば、新しい疫病は、繰り返し繰り返し、人びとを凄惨な悲劇に巻き込んできた。

 

だが、マスメディアも政治家も、この21世紀、令和の時代に厄病が流行るとは、夢にも思わなかった、という騒ぎ方である。

これも、現代の医学の力で、屈服させる事のできないウィルスなど想像もしていなかった、という証ではなかろうか?

 

それにしても、この局面にあって、政治家は、存在意義を疑われるような無能ぶりをさらけ出している。 

まったくの機能不全に陥っていると言っても過言ではない。

 

第1波が終息した後、コロナ対策に逆行するGoTo 事業を延々と続け、第2波、第3波を甘くみ過ぎた結果が、現在の感染爆発ではないのか?

 

 

未知の世界の扉を開け。

話を元に戻す。

 

今も、世界は謎に満ちている。

 

現代人がアニメやゲームに求めている、不可思議な魔法の世界は、知性のアンテナを高く掲げ、感性を豊かに保つならば、自分自身で、いくらでもつかみ取ることができるものだ。

 

そのために、多くの文学作品や映像芸術、音楽芸術、美術、歴史的文化財、各地に残る歴史的遺構などは、あなたの目の前にある。

 

その扉を開けば、そこからくみ取ることができる新しい物語が、あなたを待っている。

 

それは、自分が興味を注られた、ひとつの対象との、邂逅から始まる。

出会いは出会いを呼び、やがて、自分だけの知見というものが、生まれ出る。

 

そこから、個たる人間の尊厳に基軸を置いた、新しいモラルが生まれてくるのではなかろうか?

 

knock, and it will be opened to you.

 

叩けよ、さらば開かれん。

 

「新訳聖書・マタイ伝」より。

 

これは私の学生時代、学舎(まなびや)の壁に彫られていた言葉である。

 

Knockin'  on Heaven's Door        Bob  Dylan 

Knockin' On Heaven's Door

Knockin' On Heaven's Door

  • ボブ・ディラン
  • サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
ボブ・ディラン/我が道は変る ~1961-1965 フォークの時代~ (字幕版)

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  • ロブ・ジョンストーン
  • 音楽ドキュメンタリー
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ビリー・ザ・キッド/21才の生涯 (字幕版)

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  • サム・ペキンパー
  • ドラマ
  • ¥1528

 

 記事の参考としたのは、上掲のほか、以下のとおり。

「北野天神縁起説話の成立過程」 笠井正昭

https://doshisha.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=15512&item_no=1&attribute_id=28&file_no=1

「日本奇談逸話伝説大辞典」所収「菅原道真」竹居明男 

飛梅

DSCT1891

博多発・めんたいロック特集 PART 2 。80年代を駆け抜けたカリスマ達。モダン・ドールズ、フルノイズ。

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こんばんは。デラシネ(@deracine9)です。

本日は、めんたいロック特集の第2弾。

天神の「照和」、博多の「ぱわぁはうす」閉店後に活動した、80年代のバンドにスポットを当ててお送りします。

 

それでは1曲目。

ヌーベルバーグにつまづいて モダン・ドールズ

MODERN DOLLZ COMPLETE BEST-Just a hero-

MODERN DOLLZ COMPLETE BEST-Just a hero-

  • アーティスト:MODERN DOLLZ
  • 発売日: 2002/10/04
  • メディア: CD
  

モダン・ドールズ。

1978年結成。

ヴォーカルの佐谷光敏を楽曲のコンポーザーとして、ファンのあいだでカリスマ的人気を誇った。

モッズやロッカーズなどと並んで、博多ロックの中心にいた。

 

吉川晃司、BOØWY に影響を与えたとも言われる。

80年代の音とは思えない、洗練されたヴィジュアル系の元祖とも言えそうだ。

ビートの効いたファンキーなサウンドもあれば、ダンサンブルで、メロディアスな曲もある。

 

このバンドが、なぜ、メジャーデビュー出来なかったのか?

これはちょっと、追究していきたいテーマだ。

 

歌い方を聴けば、まるで吉川晃司か氷室京介。

こっちが本家なのでは、と思わせる。

 

この曲のタイトルは、甲斐バンドっぽい。

「ダニーボーイに耳をふさいで」「東京の冷たい壁にもたれて」みたいな感じ。

この頃、甲斐バンドは、ニューヨークで新譜のミックスダウンを行うメジャーバンドだった。 

 

凍てついたサンダーロード モダン・ドールズ

DANDY! FRENZY STORY! - EP

DANDY! FRENZY STORY! - EP

  • MODERN DOLLZ
  • J-Pop
  • ¥917

時代は変わる

時代は変わる

 

70年代の終焉。

福岡天神の「照和」 と博多の「ぱわぁはうす」は、ほぼ同時期の、1978年に閉店。

多くのアーティストが生まれ、東京へ巣立って行った。

 

「照和」からは、海援隊、チューリップ、甲斐バンド、長渕剛。

「ぱわぁはうす」からは、サンハウス解散後の鮎川誠、柴山俊之。

 

彼らの上京によって、バックヤードにいた者たちにも転機が訪れる。

 

 

ジューク・レコード店主、松本康。

学生の頃から、ロック喫茶・ぱわぁはうす のスタッフだった松本は、博多ロックを支え続け、その栄枯盛衰を目の前で見てきた。

サンハウス5人のメンバーに次ぐ、六番目のサンハウスとも呼ばれた男だ。

 

1977年、松本は輸入レコードショップ「ジューク・レコード」を福岡市天神に開店。

70年代後半から活動を始めた次なる世代の胎動を肌で感じ、ライブの開催やインディーズ・レコードの自主制作をサポートし、後方支援を続けた。

 

そして 80年代、博多ロックはモッズやロッカーズを始めとする次世代バンドを相次いで誕生させ、「めんたいロック」という全国区の知名度を得る。

博多という街が、ローカルでフランクであるがゆえに、生粋のロック・スピリッツが擡頭する足場が存在した。

 

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現在のジューク・レコード 。福岡市中央区、親不孝通り横にある。

 

 

フルノイズ LIVE  1982

フルノイズ82

フルノイズ82

 

 フルノイズ。

ヴォーカル・井上マサルを中心として結成。

モダン・ドールズと、その時期は重なっている。

このバンドも、博多ロックの中核を成した。

 

マサルは小学6年のとき、長崎県から福岡市東区西戸崎に引っ越して来た。

リンゴ・スターに憧れて、我流でボンゴを叩いていた。

 

高校生のとき、照和のオーディションを受け、二度目で合格。

マサルのボンゴは、甲斐よしひろの目に止まり、ハッピーフォークコンテストの優勝曲「ポップコーンをほおばって」の演奏に、臨時メンバーとして加わった。

 

博多で有名になっても、メジャーになるつもりはなかった。

自分流のロックを貫くこと、それ以外に関心がない男。

 

出したレコードは、自主制作盤の EP 1枚だけ。

しかし 2001 年、過去のライブ録音が、奇跡的にCD として発売された。

 

時を超え、2015年から活動を再開している。

生業は、トラックのドライバーだと言う。

 

 

偉そうな奴  フルノイズ

NOISE HOTEL

NOISE HOTEL

  • アーティスト:フルノイズ
  • 発売日: 2019/10/01
  • メディア: CD
 

フルノイズ82

 

1979年に開店したライブハウス、80‘s FACTORY 。

照和、ぱわぁはうす と入れ替わるように、80年代初期の博多ロックを支えたのが、80's FACTORY だった。

 

店長は、伊藤エミ

伊藤は「照和」の常連客だった。彼女のお目当ては、月曜日。

看護学校に通いながら、月曜の夜になると寮を抜け出し、最前列で甲斐よしひろがステージに立つのを待ち焦がれた。

 

そのうちメンバーとも親しくなり、ライブの後の片付けをしたり、メンバー行き付けの屋台「喜柳」にも同行するようになった。

そこから彼女は、博多ロックを支える中心の一人となってゆく。

 

博多から天神の親不孝通りに進出した居酒屋の経営者・溝上徹思

彼は、親不孝通りを若者の不夜城にした立役者だった。

次々と若者向けの居酒屋店舗を出店し、親不孝通りのタウンマップを作った。

 

伊藤エミは客として溝上と知り合い、新しいライブハウスを作るため、日本全国を巡った。

2年の時を経て、伊藤は帰って来た。

オーナーは溝上、現場の店長は伊藤だった。

 

危険がいっぱい ヒップス

ヒップス。

太田黒恵美は、大牟田市出身。

女性ヴォーカルで、80's  FACTORY の仲間たちから生まれたバンド。

のちに、ティーンエイジ・ニュースを結成する。 

 

この曲を聴くと、サディスティック・ミカ・バンドあたりの影響が見て取れる。

女性ヴォーカルのバンドは、この時期から急増した。

伝説のステージと、夢の終わり。

親不孝通り沿いにある長浜公園の北側に、80's FACTORY はオープンした。

80年代博多ロックの伝説が、その場所から生まれた。

 

シーナ&ロケッツ、山善、モッズ、ARB 、ロッカーズ、ルースターズ、フルノイズ、、モダン・ドールズ、ダイナマイト・ゴーン、アクシデンツ、マーキーズ、ヒップス、ルーズ…。

 

めんたいロックという名では一括りに出来ない、個性豊かなバンドが、このステージに立った。

 

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現在の長浜公園。80s‘FACTORY は、樹々の向こうに見えるコンビニの横辺りに在った。
 

開店から、わずか3年足らず。

80's FACTORY は、1982年3月、その終焉を迎えた。

その理由は、なんという事もない。

赤字が続く、という金の問題だった。

 

博多んもんのロック、すなわち、祭りだけでは食ってはいけん。

 

それは、ロック・ミュージックというものに内在する、本質的な問題をはらんでいる。

上昇指向の高い、メジャーへ挑戦するバンドは、いつか東京へ旅立つ。

集客力に優れたバンドが上京すると、やはり客足は落ちる。

 

地元志向、ピュアなロックテイストを追い求めるバンドは、博多で活動を続ける。

だが、本命がいないマネーゲームに、打ち克つバンドは多くはない。

 

いずれにせよ、ロックは転がり続ける事、時代に叛旗を翻す事、それができなくなれば、終わる。

THE MODS の森山達也が歌ったように、ロックで生きるということは、いつかは負ける「ルーズ・ゲーム」を戦い抜くという覚悟を必要とする。

 

やがて、夢は終わる。

「祭りのあと」の寂しさが、訪れる。

それこそが、青春そのものと言えるのかもしれないが…。

 

これも超名曲。

バレンティノ気取って モダン・ドールズ

時代は変わる - Single

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悲運のカリスマ・佐谷光敏。

モダン・ドールズの佐谷は、40歳の若さでこの世を去った。

まだまだ、彼の音楽人生は続くはずだった。

それだけの才能に溢れていた。

 

モダン・ドールズの誤算は、メンバーが固定しないことだった。

その最たる出来事が、ギターとドラムスのモッズへの移籍だった。

 

ロンドン・レコーディングによるメジャーデビューという華々しいモッズのブレイクに、佐谷は何を思っただろう。

 

佐谷のスターとしてのルックスや音楽のセンスは、博多のバンドの中でも飛び抜けていた。

それだけに、負け犬にはなりたくない、なるはずがない、そう思っていてもおかしくはなかった。

 

カリスマにも焦りはあっただろう。

そして、ついにメジャーに行けなかったという想いが、佐谷を苦しめた事は、想像に難くない。

 

運と実力。

よくいわれる二つのうち、佐谷には片方が欠けていた。

それは、誰よりも、佐谷自身が知っていたのではないだろうか?

 

Dandy! Frenzy Story!

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今も鳴り止まない、音がある。

照和、ぱわぁはうす に次いで伝説となった80's FACTORY 。

その聖地の向かいには、長浜公園を挟んで、今もライブハウスがある。

DRUM ROGOS と DRUM Be 1 。

 

その場所は、今でも青春の中に燦めく光彩を放って止むことはない。

長浜公園には、今も大勢の若者達がライブを目当てに訪れる。

 

今ではメジャーになった多くのバンドが、そこでギグを演った。

20年前、私はロゴスで、エレカシを聴いた。

 

最近では、あいみょんが、2018年3月に DRUM Be1 で、同年12月に、DRUM LOGOS で、ライブをやった。

 

ローリング・ロックのスピリッツは、今も博多の街で、鳴り止むことはない。

カーテンコールの陰で、鳴り止まない拍手の音と共に、時代の空気の中に息づいている。

 

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80’ FACTORY が在った長浜公園の南側に、ライブハウス・DRUM LOGOS 、DRUM Be 1 がある。親不孝通りにある長浜公園は、今も若者達の溜まり場となっている。

 

それでは最後の曲。

曲を書いたのは、もちろん、モダン・ドールズの佐谷だ。

 

インプロビゼーション モダン・ドールズ / ティーンエイジ・ニュース / ザ・シャム / 山善

Dandy! Frenzy Story!

最後に。

ここに、特筆して紹介したい本がある。

 

田代俊一郎氏の著作「博多ロック外伝」。

この本は、田代氏が西日本新聞の連載「博多ロックの軌跡」を加筆修正して生まれたものである。

 

読んで頂いた記事の中に貼っているリンクから自ずと知れると思うが、記事の中のエピソードは、この著作に多くを負うている。

 

田代氏には、心から感謝申し上げたい。

そして、著作の内容の一部をお借りして、この記事を書かせて頂いたことに、ご寛恕のほどをお願いしたい。

 

 昨年、私はこの本を、「ジューク・レコード」で発見した。

博多のロック・シーンを語る上での貴重な著作に、ずいぶんと刺激を頂いた。

 

また、店内外の写真撮影をお許し頂いた、ジューク・レコード スタッフの方、及びオーナーの松本康氏には、心から感謝申し上げたい。

 

松本康氏は、博多ロック・シーンにおけるレジェンドである。

スタッフの方から、現在、健康を損なっておられるとお聞きした。

一日も早いご快復を祈っている。

 

いつかお元気な姿で、お店でお会いできればと思う。

( 文中の敬称は省略しました。)

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安倍晋三 「#秘書がやりました 」答弁の破壊力。

 liar 

こんばんは。デラシネ(@deracine9)です。

桜を見る会の追及もいよいよ本番、というところです。

 

それにしても、この言い訳を、令和の時代に聞くとは、思いませんでした。

安倍晋三君、すごいの一言です。

 

自分の罪を、すべて人になすりつけて、知らん顔、さらに嘘に嘘を重ねる。

人として、どうでしょうか?

 

 

 

また大喜利が始まっています。

 

 

 

https://twitter.com/nekkosamuraicat/status/1342797289455198210

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
思うに、このタグの良いところは、与野党関係なく、すべての政治家や善人ヅラした悪党に使えることでしょう。

 

ずっとウソだった  斉藤和義

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ずっと好きだった

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まぁ、嘘は間違いないでしょうね。

これで秘書がやったと考えるほうが、不自然ですよ。

 

今回は、私も #秘書がやりました 大喜利に参加させて頂きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いかがでしたか?

少しは笑って頂けましたか?

 

権力者をコケにして嘲笑うに、最善かつ有効な手段は、風刺です。

たとえば、チャップリンの「独裁者」という映画がありますね。

これこそ笑いというものの、最たる果実です。

 

権力を握ると、どんな人間でも感覚がマヒし、おかしくなるものです。

より良い民主主義の発展のためにも、皆さん、権力者の動向に眼を光らせましょう。

 

独裁者 (字幕版)

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官邸陰謀説は、本当か? 

すでに終わっていたはずの、桜を見る会疑惑でしたが、突然、検察が安倍事務所への聴取というニュースが流れました。

スクープしたのは、読売新聞とNHK。

 

これが不自然なんですね。

菅総理に近く、官邸が影響力を持っているはずの2つのマスメディアが、なぜ安倍前総理の疑惑のニュースをスクープしたのか?

これは、限りなく黒に近いのではありませんか?

 

 皆さん、年の瀬に大寒波、コロナ第3波と、大変な日々が続きますが、どうぞ、よいお年を。

それでは、今年最後の曲。ARB 。

 

THE WORKER        ARB  

THE WORKER

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Work Songs

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BAD NEWS

祈りの歌。愛という名の哀しみ。

私にとって、かけがえのない生命が、危機にさらされている。

まぶたに溢れ出る涙を、どうすることもできない。

ただ、あなたの快復を祈る日々が続く。

 

I for You          LUNA SEA 

I for You

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I for You

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生きていれば、必ず遭遇するであろう出来事に、戸惑うばかり。

なんと言葉をかけていいか、わからない。

あなたを見つめるうちに、あなたの面影が涙で霞んでゆく。

無事であって欲しい。

生きて欲しい。

 

究極の愛は、必ず別れに出くわし、哀しみで終わるのか?

愛した歳月の長さだけ、涙は流れて止まない。

 

命をかけて、手術台の上にあったあなたを、私は見守ることもできなかった。

ただ虚しく、陋巷にあって、あなたが救われるのを、願うばかりだった。

 

神よ。

どうか、かのひとの命を、守らせたまえ。

この想いを、我が愛するひとに、届けたまえ。

かのひとに、安らぎと、すこやかなる日々を、授けたまえ。

 

HOWEVER          GLAY

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HOWEVER

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この世に人が現れて以来、愛する者を襲う悲劇に、幾千億の哀しみが、人びとをどん底の淵へと追いやったことだろう。

だが、今の私には、目の前の哀しみにすべてが覆われて、何も考えることができない。



この哀しみが、必ずや報われんことを。

我が言の葉のいくたりかが、天上の神のもとに、届けられんことを。

 

愛しきひとよ。

あなたのいのちが、ふたたび輝きを取り戻さんことを。

大地に根づき、くだされた自然に、大きく息を吹きかえさんことを。

私は、祈り続ける。

 

Oh My  Love        JOHN   LENNON 

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Oh My Love (2010 Digital Remaster)

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God Loved the Birds

1999年、福岡ダイエーホークス 初のリーグ制覇への軌跡。〜ホークス、4年連続日本一によせて~

yahoo dome 

コロナ禍の中、日本のプロ野球界は、11月に日本シリーズが開幕。

福岡ソフトバンクホークスが、4年連続の日本一を達成し、幕を閉じた。

 

 今回は、長きにわたりホークスファンである私の、地元球団を巡る物語である。

伝説の西鉄ライオンズ、黄金時代を知る福岡の町。

かつて、福岡には西鉄ライオンズというチームがあった。

稲尾和久という大エースを擁し、中西太豊田泰光大下弘などの打棒で日本シリーズ3連覇を成し遂げた、伝説のチームである。

 

なかでも稲尾和久はすごかった。

大分県別府市の漁師の子として生まれ、幼い頃から漁を手伝い、沖へ出て櫓を漕いだ。

その大海原で鍛えられた強靭な足腰で、年間42勝、3年連続30勝、8年連続20勝など、人間離れした数々の大記録を残した。

 

なかでも1958年は、3年連続巨人相手に日本一のかかるシリーズ。

西鉄は3連敗から4連勝して日本一となり、稲尾は、7戦中6試合に登板。

3戦目からは5連投し、7試合で5完投。

ファンから「神様、仏様、稲尾様」と呼ばれた。

魔術師 上 三原脩と西鉄ライオンズ(小学館文庫)

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鉄腕伝説 稲尾和久―西鉄ライオンズと昭和

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その後、ライオンズは西鉄から太平洋クラブ、クラウンライターと身売りを重ね、下位を低迷するようになる。

 

そして、1978年。

クラウンライターが西武グループに球団を身売りし、ライオンズは埼玉へ。

地元からプロ野球が消えた。

 

私の祖父は、晩年、ライオンズが埼玉に移転した後も、ひとり晩酌を口にしながら、ラジオのナイター中継を聴き続けた。

それだけ西鉄ライオンズの残した栄光は、忘れ難いものがあったのだろう。

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南海ホークスから福岡ダイエーホークスへ。

福岡にプロ野球が戻って来たのが、1989年。

大阪の南海ホークスは、福岡ダイエーホークスとして生まれ変わった。

だが、変わったのは、名前だけ。

かつて、鶴岡一人野村克也を監督として築いた栄光の面影は、すっかり鳴りを潜めていた。

 

九州に移転し、福岡ドーム(現・ペイペイドーム)という巨大な球場を本拠としてからも、パ・リーグの弱小球団の体質はそのまま。

依然として、西鉄ライオンズの黄金時代を知る、西武ファンの方が多かった。

 

そこで動いたのが、根本睦夫

福岡を去った、クラウンライターライオンズ最後の監督であり、西武ライオンズの初代監督。

80年代から90年代にかけて、13年間で11度のリーグ優勝、7回の日本一を成し遂げた、西武ライオンズ黄金期の礎を築き、球界の寝技師と言われた男。

 

1993年、ダイエーのオーナー・中内功の招へいを受け、西武ライオンズのフロントを離れてダイエーホークスの監督に就任した。

その年のオフ、西武との大型トレードで、エースの村田勝喜、主軸の佐々木誠を放出して、秋山幸二を獲得。

同年、小久保裕紀が、ドラフト2位指名で入団。

翌1994年には、フリーエージェント宣言をした工藤公康石毛宏典を獲得。

同年、ドラフト1位で城島健司を指名し、入団。 

さらに根本睦夫は、元巨人軍監督で世界の本塁打王・王貞治を監督に招き、自身は球団のフロントに入る。

すべては、勝つことの喜びを知る、新しい血を入れるための処方だった。

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すべては勝利のために。

それでも、栄光ははるか彼方にあった。

自分達が、優勝なんてできるわけが無い。

チーム全体に染みついた負け犬根性は、容易には払拭出来なかった。

 

1996年には、不甲斐ない戦いにブチ切れたファンが、チームバスに生卵をぶつけるという、いわゆる生卵事件が起きる。

そして、1997年まで、球団は20年連続のBクラスという不名誉な記録を作った。

しかし、勝つための土壌は、確実に培われていった。

秋山幸二の背中を、小久保裕紀が追いかける。

左右のエース、工藤公康と武田一浩が、捕手・城島健司をしごき上げる。

 

1996年のドラフト会議では、井口忠仁(現・井口資仁)、松中信彦が入団。

勝ちを知るベテランと新しい若い力が噛み合い始める。

 

常勝チームの主力だった男達によって、若手の意識改革が誘発される。

プロとしての肉体と精神を鍛え上げ、ハードでタフな準備を行う厳しさを、元・西武の秋山や工藤、石毛はチームに範として示した。

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チャレンジが道をひらく 野球この素晴らしきもの (100年インタビュー)

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1998年、チームは福岡移転後、初めての優勝争いを演じるが、最後の土壇場で連敗を続け、同率3位に終わった。

 

この年は、球団や選手にスキャンダルが発覚した。

 

開幕前には、選手5名が脱税事件に関わったとして数週間の出場停止処分を受けた。

そしてオフには、球団職員がアルバイト学生に金を渡して、外野から捕手のサインを盗み、選手に教えるというスパイ疑惑が持たれ、応援していたファンをガッカリさせた。

そんなことをして勝っていたのかという思いに、 私も大いに失望したものだ。

 

根本睦夫の急逝。初めてチームがひとつになる。

そして迎えた1999年。

4月30日時点で、ホークスは、シーズン序盤から勝ち星を重ね、2位に付けていた。

そんな中の、突然の訃報だった。

球団社長を務めていた根本睦夫が、逝去した。

チームの礎を築いた根本の死を、最も悼んだのは西武時代から関わりの深かった、秋山と工藤だった。

 

秋山幸二は、熊本・八代高時代は投手だった。

その秋山の野手としての能力を評価して、根本はドラフト外で西武に入団させた。

工藤公康は、父親の強い意向でプロ入りを拒否し、愛工大名電高から社会人・熊谷組入りが内定していた。

根本は、そんな工藤をドラフト6位で強行指名、口説き落として入団させた。

工藤の結婚式の仲人でもある。

二人は、根本の前で、あらためて奮起を誓った。

 

5月9日、チームは貯金4つで、今季初めての首位に立つ。

スターティングメンバーには、1、2番に村松有人柴原洋浜名千広

俊足、巧打の3人が、日替わりで名を連ねる。

 

4番には、小久保裕紀が固定される。

その前後に、井口忠仁、城島健司、秋山幸二、松中信彦らの和製大砲がズラリと並んだ。

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 一番の懸案事項は、投手陣だった。

前年オフに、右のエースだった武田一浩が中日に FA 移籍し、工藤公康がひとりエースとして残された。

その他では、1992年のルーキーイヤーからローテーション投手の若田部健一

その二人以外に、完投能力のある投手は不在だった。

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 しかし、次々と新星が現れる。

武田一浩のあと、先発の穴を埋めたのは、1997年にドラフト指名で入団した、永井智浩星野順治だった。

二人は、それぞれ10勝を挙げる。

 

そして、彼らと同期入団の篠原貴行が、リリーフ・エースとして 絶体絶命のピンチをピシャリと抑え、リリーフだけで14連勝と神がかりの活躍をした。

また、シーズン途中から加入した外国人投手、ペドラザがクローザーとして9回に定着。

 

7回まで勝っていれば、必勝パターンに持ち込める、勝利の方程式が出来上がる。

 

課題は、ほかにもあった。

20年以上優勝したことが無いという経験値の低さと、勝ちにこだわるメンタリティの欠如である。

 

そこで、ここぞという試合に、王監督は西武黄金期を支えた秋山幸二、工藤公康を起用した。

チームに活力が欲しいと思えば、カンフル剤として秋山幸二を1番バッターに据える。

2位との差が首の皮一枚というときに、工藤公康に試合を託す。

 

まさに、勝つことが当たり前のプロ野球人生を生きた王貞治という男の、絶妙の采配だった。

 

チームは、6月の連敗で、一度の首位陥落を余儀なくされる。

だがそれ以降、 0.5 ゲーム差に詰め寄られることがあっても、首位を明け渡すこと無く、マジックが点灯する。

そこに見ることができたのは、初めてチーム一丸となったナインの、躍動する姿だった。

ダイアモンドの鷹(福岡ダイエーホークス応援歌)竜童組

ベースボールマガジン 2020年 11月号 特集:福岡ダイエーホークス王道伝説 (ベースボールマガジン別冊紅葉号)

ベースボールマガジン 2020年 11月号 特集:福岡ダイエーホークス王道伝説 (ベースボールマガジン別冊紅葉号)

念願のリーグ制覇。歓喜の瞬間。

忘れもしない、9月25日。対日本ハム戦。

私は、3塁側の内野席に坐って、試合開始前から地元ラジオ局のナイター中継を聴いていた。

マジック2 で、胴上げが見られるかもしれない、という夜だった。

 

そのとき、ラジオから朗報が流れた。

私は、思わず声を上げてしまった。

「デーゲームで西武が負けた。勝てば優勝だ」

 

客席のざわめきは、波のように拡がった。

やがて、「マジック1」「勝って優勝」の応援ボードが、バックスクリーン上の液晶パネルに映し出される。

そこにいる誰もが、夢の瞬間が目の前だと感じた。

 

アンパイヤの手が上がり、試合が始まる。

先発投手は、若田部健一。

序盤、秋山の先頭打者ホームランで先制するも、中盤に若田部が満塁ホームランを浴び、逆転を許す。

しかし、7回裏、小久保のホームランで同点に追いつく。

 

8回表、すかさず篠原がマウンドへ上がる。

その裏、井口が勝ち越しソロを放つ。

9回表、篠原は回またぎでワンアウトを取る。

そして、ペドラザが登板する。

 

最後のバッターを空振り三振に取った瞬間、夢は現実のものとなった。

一斉にダイアモンドに駆け寄るナインに、歓喜の輪ができる。

城島も小久保も、泣いている。

王監督が、晴れやかな笑顔で歓喜の輪に抱かれ、宙に舞う。

ドーム球場は、大歓声の嵐に鳴動した。

Get the top~1999年福岡ダイエーホークス優勝への軌跡~ [VHS]

大盛り上がりの福岡。ホークス旋風が巻き起こった。

思えば、この初優勝ほど、すごい盛り上がりを見せた年はなかった。

中洲を歩けば、ストリートミュージシャンが「いざ行け、若鷹軍団」を歌っている。

駆け寄った中洲の酔客と、大合唱が始まる。

 

中洲と天神のあいだを流れる那珂川。

その川に福博出合い橋、という短い橋が掛かっている。

橋の中央部には、日除け屋根が付いた丸い東屋の出っ張りがあった。

 

優勝の夜、同形の丸屋根が、那珂川ダイビングのボードとなった。

女の子までが大歓声のなかを次々とダイブする姿は、テレ朝、久米宏がキャスターだったニュース・ステーションで生中継された。

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福博出会い橋。手前が天神。橋の向こう側が中洲。(写真提供:福岡市)
 

このダイブは翌年の優勝まで続いたが、危険だと福岡市が禁止してからは、元の屋根の姿に戻った。

かつて阪神が優勝したときの、道頓堀川に掛かる戎橋ダイブから派生したものだろうが、生で見ていてホントに楽しかった。

 

元がお祭り好きの博多っ子である。

街中が喜びに溢れ、出会う人すべてが友人知己のような一体感が肌で感じられた。

この優勝以来、ペナントレースが佳境を迎える時期になると、街中の商店街やデパートが応援歌を流し、タクシー、バスの運転手から宅配便に至るまで、ホークスの法被(はっぴ)を着て応援体制を取るようになった。

それは、現在の「鷹の祭典」にまで受け継がれて、今日に至っている。

中日相手に、あっさりと日本一。常勝チームへの一歩を踏み出す。

そして迎えた日本シリーズ。

相手は、星野仙一監督率いる中日ドラゴンズだった。

 

第1戦は福岡で、先発・工藤公康の完封勝利で幕を開けた。

1勝1敗で名古屋ドームへ。

中日には前年までホークスにいた武田一浩がいた。

しかし、ホークス打線は中日・武田一浩をあっさり攻略。

福岡に帰って来ないまま、第5戦で日本一を決めた。

MVP は、秋山幸二だった。

こうして、九州でこよなく愛される球団となったはずのホークスだったが、その後、次々と試練に見舞われることになる。

そのお話は、また次の機会にしよう。

 

 福岡ソフトバンクホークス、4年連続日本一、おめでとうございます。㊗️

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Untitled

パンデミックに思う神の不在。なぜ、宗教は存在するのか?

こんばんは。デラシネ(@deracine9)です。

本日は、「パンデミックに思う神の不在」と題してお送りします。

God Rays

新型コロナウィルスが、再び猛威をふるい始めた。

その昔、人類は災害や疫病の流行のたびに、それを神の怒りと畏れ、おののいた。

天罰、devine punishment  であると。

 

それゆえ、人びとは各々の行いを顧み、自分たちの何がいけなかったのかと、襟を正し、神にゆるしを請うた。

 

現代人は、そのような態度をすっかり忘れてしまっている。

ただ、自らを被害者とのみ信じ、反省することはない。

 

太宰治の「思い出」という処女作に、こんなくだりがある。

幼い頃の太宰が、たけという乳母に、お寺に連れて行かれる話である。

 

たけは又、私に道徳を教えた。

お寺へ屡々連れて行って、地獄極樂の御繪掛地を見せて説明した。

火を放けた人は赤い火のめらめら燃えている籠を脊負わされ、めかけ持った人は二つの首のある青い蛇にからだを卷かれて、せつながっていた。

血の池や、針の山や、無間奈落という白い煙のたちこめた底知れぬ深い穴や、到るところで、蒼白く痩せたひとたちが口を小さくあけて泣き叫んでいた。

嘘を吐けば地獄へ行きこのように鬼のために舌を拔かれるのだ、と聞かされたときには恐ろしくて泣き出した。

 

太宰治「思い出」より。

 

私はなにも、道徳教育の必要性を主張しているわけではない。

明治、大正くらいの生まれの人ならば、特定の宗教を奉じずとも、このような素朴な道徳感情を、必然的に宿していたのである。

 

The Realm of the Hungry Ghosts, Photo 6 地獄絵図。嘘つきが鬼に舌を抜かれている。

 

宗教は、なぜ生まれたか?

それは、古代人の立ち位置から世界を眺めてみれば、明らかであろう。

 

この世は、謎に満ちていた。

なぜ、陽の光は出でて、沈むのか?

なぜ、人は生まれ、死ぬのか?

世界の果ては、どこにあるのか?

風はいずこから吹き、雨はいかにして地上へ降り注ぐのか?

 

それは、人間わざではない。

超越した何者かが、この世を創りたもうたのではなかろうか?

 

そうして、人びとはそれぞれの住む地上に見合う、神という超越者を生み出した。

神が創り出した世界であれば、その意思によって、壊すこともたやすいはずである。

 

超越する者は、時に怖るべき破壊を人びとの暮らしに与えた。

大いなる自然は必ずしも優しくなく、むしろ怖るべき脅威であった。

疫病や飢饉、災害は、人びとを苦しめ、生命を奪った。

 

それゆえ、人びとは地上に食糧をもたらし、生きながらえる自然を育む者を敬い、畏れた。

古代の人びとは、生きるために、人間を超える力の存在を、嫌というほど思い知らされた。

それゆえに、自分たちを救い、慰撫してくれる、大きな力の存在を崇める必要があった。

 

宇宙の創造をオトにしたかのような、スケール感のある名曲。

ジェラシー      Mr.Children 

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人類の起源、宗教の誕生 (平凡社新書0913)

人類の起源、宗教の誕生 (平凡社新書0913)

 

Ancient Egyptian Murals at the Metropolitan Museum of Art in New York (1)

古代エジプトの壁画。メトロポリタン美術館所蔵。

 

現代人における神の不在。 

それにひきかえ、現代人はどうだろう。

自己を超越した者への畏れなど、今や持っていないに等しい。

とりわけ、無宗教と言われる日本人は、その傾向が顕著である。

 

科学技術の進歩は、世界の存在はおろか、大宇宙の闇までも照らし出そうとしている。

誰も、雨が降ること、雪が降ること、昼と夜があることに、疑問を持ったりはしない。

すべては気象データが解析してくれる。

 

それは、科学の進歩の負の側面である。

その恩恵を受けて、人類は今の繁栄を手に入れた。

そのかわり、さかしらな叡智は、人類を傲慢にした。

 

すべては科学技術の力で解決できると、大きな勘違いをすることになった。

それゆえ、人は災害も疫病も人知で克服できるかのような錯覚を抱いている。

 

人間は、とてつもなく愚かだという自覚もない。

ノアの箱舟やバベルの塔の教訓が、現代人には再度必要なのかもしれない。 

カラー版 イチから知りたい! 聖書の本

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  • 発売日: 2016/01/19
  • メディア: Kindle版
 

Bruegel the Elder, Tower of Babel

ブリューゲル作。バベルの塔。

 

神をも怖れぬ人間の傲慢。

最も多くの叡智が結集さるべき現代において、人間はなにをしているか?

 

ボタンをひとつ押せば、世界中の生物を破滅に追いやる核兵器を生産し続け、それが戦争回避の抑止力だという馬鹿なへ理屈が、大手を振ってまかり通る。

 

福島の原発危機を経験したあとも、原子力発電所は政治家の利権によって維持され、全面廃止とはなることはない。

 

環境破壊がいずれ、地球を死に追いやるという事実にも、政治家は目を向けない。

ひとりの無垢な少女の眼だけが、それを見つめ、大人たちを狼狽させている。

 

我が国の愚かな政治家どもは、国の立法府で嘘をつき続ける。

地獄では、舌が何万枚あっても足りないだろう。 

 

災害や疫病は、人間の驕りが生み出したものだ。

少なくとも、そう思うことで、人間は世界の森羅万象に対し、もう一度、謙虚になれる。

 

この宇宙の発生メカニズムは探究し得ても、なぜこの大宇宙が生まれたのか、という問いに答えられる人間は、誰もいないはずだ。

 

人類は、もう一度、この宇宙と共存するための、新しい哲学を模索すべき時ではないだろうか?

 

 

God      John Lennon 

God

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ジョンの魂(紙ジャケット仕様)

ブログで短編小説を。作者のあとがき。「Fin 」中森明菜。

Books 

これまで、五篇の短編小説をブログに書いた。

ここらで、読んでくれた皆さまへの感謝をこめて、創作の舞台裏を少々お話したい。

自画自賛の鉄面皮。

おこがましいが、何か小説らしきものを書いてみたいと思っている方への、ヒントともなれば、幸い。

 

「Fin 」について。

中森明菜という歌い手は、彼女自身の人となりに、自身の楽曲を重ね合わせ、悲しいくらい自分のものとしている、稀有な存在だ。

憑依型という形容があるが、彼女もまた、この表現に、よく当てはまる。

 

彼女の歌を聴いていると、歌の世界そのものが、彼女に思えてくる。

中森明菜の半生と、彼女を演出した楽曲には、意図的な共犯関係がある。

報われない愛に狂い、悲しみの底に堕ちてゆく、女の情念そのものの化身となって、中森明菜というメタ・フィクションは成立した。

 

そんな中森明菜の世界から湧き出てくるイメージは、ごく短いモノローグこそふさわしい。

「Fin 」の歌詞の「手でピストル真似て涙をのむ」という愛憎ウラハラな言葉。

そして、彼女の「二人静」という楽曲のなかの「殺めたいくらい愛しすぎたから」という激しすぎる情念の言葉。

このふたつの詞が、この短い散文詩の最後を飾る。

 

「爪を噛む癖」。

普通なら、不潔で子供じみた仕草と、嫌がる女も多いはず。

それを、起承転結の「起」と「転」に用いたことで、ストーリーが生まれた。

短編小説は、「転」のアフェアがキモである。

 

永遠の歌姫。

中森明菜は、私の心に、そうあり続ける。…

Fin        中森明菜

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二人静   中森明菜

二人静-「天河伝説殺人事件」より

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二人静

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二人静

ブログで短編小説を。見返り美人。BORO 。

ゴールデン☆ベスト BORO アーリー・デイズ[スペシャル・プライス]

見返り美人

おまえさんの言うとおりだったよ。

わかってる、いまさらなにを言ってもしょうがない。

だから、こうやって飲んだくれてんじゃねえか。

もうやめとけ、だと。

客商売が、バカなこと言うな。

飲ませてくれ、頼むからよ。

 

ニ年になるかな。

オレが、この店に初めて来てから。

飲んでいると、あいつがそこのドアから、ふらりと入ってきた。

あれほど酔って、泣きくずれてる女を、初めて見たよ。

狂ったように、男に捨てられたって、わめいてた。

オレはあいつを、もの珍しい、絶滅危惧種のアホウドリみたいに、ただ眺めてたっけ。

 

あいつがオレにすり寄って来たんで、あんた、あいつになにか言ってたな。

迷惑だよ、とかなんとか。

オレにはなんの事だか、さっぱりだったけどよ。

あいつはしきりに飲もう飲もうって、オレに絡むのをやめなかった。

まあ、あいつの方が年上っぽかったんで、オレも多少引いてたよな。

あいつを振り払って、店を出ることにした。

そのときは、もう二度とこの店に来ようとは思わなかった。

 

鶴橋 / Tsuruhashi

 

人間には、どうしようもなく身についた、性分というものがある。

オレは親に逆らって、音楽の道を選んだ。

大人たちの敷いたレールの上を、絶対に歩きたくはなかった。

それが、オレの性分だったのかは、よくわからない。

ただの大アマだっただけ、と言われれば、それまでさ。

ともかく、ヘイコラして会社勤めをしていた親父に、我慢がならなかったんだ。

 

そのとき、十八だった。

オレは、ひとり東京へ向かった。

当たり前の話だが、駆け出しのバンドマンは、音楽だけでは食っていけない。

昼夜バイトに駆け回り、残った時間でバンド仲間とスタジオ練習。

スタジオを借りる金もない時は、ボロアパートで曲作りに励んだ。

 

高校の頃、オレは同級の、菜穂子という女と付き合っていた。

彼女の家は、田舎の代議士を親父に持ってるような、お堅い上流階級って感じ。

高校を出て、コースから外れたオレが、菜穂子との付き合いを許されるはずがなかった。

上京してから、彼女のことは忘れようとした。

 

そんなとき、突然、菜穂子が東京のアパートを訪ねて来た。

彼女は、半ば家出同然に、田舎を飛び出して来たのだった。

オレは、迷った。

そのいじらしさに、はらわたを引き裂かれる想いがした。

やっと、デモテープを聴いてくれるレコード会社がいくつか出てきたとはいえ、根無し草の暮らしに変わりはなかった。

一緒には、いられない。

菜穂子を、オレの巻き添えにはできない。

最後の夜、オレは泣きはらす彼女を腕に抱いて、長い時間を過ごした。

夜が明け、田舎へ向かう彼女を、東京駅に見送った。

菜穂子とは、それきり会っていない。

 

Mikaeri Madness VIII

 

酔えるものなら、なんでもいい。

次は、ウォッカをくれ。

バンドは、どうしたかって?

ヤイリ、レスポール、ギブソン…。

大方のギターは質に入れた。

どうしても愛着があって手放せないやつは、家でホコリを被ってる。

東京に来て、七年が経った。

やることはやった。

疲れたんだ。

何もかも、嫌になった。

嘲笑えよ、この負け犬を。

  

この店に最初に来て、半年くらい経った頃だ。

オレのバイト先の居酒屋に、客として、あいつがやって来た。

オーダーを取りに行ったとき、オレはあいつに気づいた。

あいつは知らん顔で、客がまばらになるまで女友達としゃべってた。

 

オレは厨房に戻って、黙々と働いた。

いつか、肉体を酷使する仕事に、心底馴染んでいた。

居酒屋だけじゃなく、ときには建設工事の現場でも働いた。

全神経を針のように尖らせ、身体を痛めつけていると、すべてを忘れられた。

故郷のことも、菜穂子のことも、音楽のことも。

くたくたになってボロアパートの部屋に帰ると、泥のように眠った。

 

Asian Japanese Bar, Shinjuku 

 

夜中の二時を過ぎた頃、居酒屋の裏口を出ると、あいつが待っていた。

「よう」

あいつは少しはにかみながら、右手を上げた。

黒いレザーのワンピースに身を包んで、ネックレスの銀だけが、夜の闇にチラチラと反射している。

「あんたか」

オレは言った。

泥酔していた女の姿が、オレの脳裏に甦った。

それから、あいつに誘われるまま、夜の街にシケこんだ。

あいつの部屋へなだれ込み、ありふれた関係になった。

 

しばらくして、あいつとふたり、あんたの店に立ち寄った。

もちろん、客としてだ。

オレはもう、百年前からあいつと一緒のような気になっていた。

あんたは、妙な顔をしていた。

 

それから十日ほど経ったある日、あんたと偶然、街で出くわした。

サテンに入って、他愛のない話をしていると、あんたは急に真面目な顔になった。

そして、あいつのことを、ひどくこき下ろした。

あの女には、惚れた男がいる。

切れた方が身のためだ、と。

だが、そのときのオレは、何を言われても聞く耳を持たなかった。

死ぬほど惚れた男に捨てられて、半気狂いになってる…。

そんな女が、オレにはちょうどいいんだ。

そんなことを言って、あんたを罵ったっけな。

 

その頃のオレは、堕ちていくだけの境涯に、身をゆだねて生きていた。

この街にやって来たときの、気負いこんだ情熱は、跡形もない。

そんなオレに、かたぎの、身綺麗な女は似合わない。

そう思いこんでいた。

 

火宅の人

 

あんた、「火宅の人」って映画を観たことがあるか?

身持ちの悪い小説家の自宅に、女優になりたいって言う女が訪ねて来るんだ。

悪い亭主ながらに子沢山で、陽の射す庭には、赤ん坊のおむつがところ狭しと干してある。

この小説家は、その女優志望の女に、こんなことを言う。

「君、女優になりたいの? そうなると、庭におむつの旗も立てられないよ」

女は、あっけらかんと、そんな人生を否定した。

 

だが、世の中の大多数の女は、そうじゃない。

家庭に入ったら、妻として、旦那のより良き伴侶となり、子育てに励み、晩年は暖かい家族に囲まれ、慎ましやかに、歳を重ねる。

そんな夢を、見ているもんだ。

そんな女かどうかは、すぐに見分けがつく。

そんな気配を持った女に出会うたび、オレはいつも逃げ腰になった。

オレのアウトローな生き様からすると、お互いを不幸にするだけ。

 

おむつの旗に、無縁な女。

特別な誰かがいなければ、あっという間に壊れてしまう。

そんな危うさを感じさせる女にだけ、オレは心惹かれた。

あいつは、そういうオレに、ストレートに響く女だった。

 

A Replica of the Original Mikaeri Bijin

 

だから、あの夜の事は、忘れられない。

カズヤのもとに帰るから、あなたとは、これっきり…。

そんな、聞きたくもない、ありきたりの言葉を吐き捨て、あいつはオレに背中を向けた。

「待てよ」

オレの叫ぶ声に、あいつは振り向いた。

一瞬、時が止まり、あいつと目が合った。

それきり、慌ただしく扉を開けて、オレの部屋を出て行った。

 

尽きることのない、激越なる悲しみは、こころとからだを壊していく。

どこからか、あいつの声が、聞こえてくる。

誰か、この苦しみを、どうにかしてくれないか。

どうしたら、忘れられる。

どうしたら、楽になれる。

闇のなかで、ひとりつぶやく。

 

オレの魂の宿る肉体は、雪崩のように落下してゆく。

オレの視界は、みるみるうちに霞んでゆく。

オレを呼ぶ声が、遠くで聞こえる。

やがて、すべては無数の記憶と共に失われ、灰色になる。

 

見返り美人  BORO  

 

f:id:FOREVERDREAM:20201030005404j:plain 

火宅の人 [DVD]

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火宅の人(上) (新潮文庫)

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  • 作者:一雄, 檀
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見返り美人 [EPレコード 7inch]

ブログで短編小説を。襟裳岬。吉田拓郎、岡本おさみ。

黄金道路 R336

襟裳岬             

耳をすますと、鳴きしだく風の音が聞こえる。

時にあらあらしく、時にやさしい、海岸線に打ちよせる波濤のさざめきも。

日々刻刻と、空と海が一体となり、大地の先端を色とりどりに染めあげる。

私は、それらの風景の一部と化し、無機質な物体となって、北の大地を歩いた。

 

岬に近い宿で、私とその男は偶然、同部屋になった。

今どき、六畳ほどの古ぼけた和室に、赤の他人と同部屋で客を泊める旅館など、そう多くはないだろうが、旅に暮らす私には、めずらしくもないことだった。

 

太宰治の「津軽」は、こう始まる。

「ね、なぜ旅に出るの?」
「苦しいからさ。」

 

私もまた、このような感慨とともに、俗世間との交わりを断ち、旅暮らしを始めた。

それまで、ラジオ局の構成作家や音楽制作の末端で職を得、糊口をしのいで来たのだが、私の性分か、それまでの暮らしをほとんど放擲してしまったのである。

 

だが、まったく収入も無く、このような暮らしが続けられる筈もない。

ラジオ局の構成作家をしていたとき知り合った歌い手に、それまで書きためておいた詩の数編を提供したところ、詩に曲をつけた歌い手の歌が大いに売れた。

それからの私は、旅の途中から、書きためた詩をその歌い手に送り、それで生活の資を得ることができるようになった。

 

宿に入ると、陽は見る間に落ちた。

人里離れた宿所ではあるが、薄い障子に仕切られた隣部屋にも、大勢客がつめ込まれている様子で、中居のおばさんと主人らしい老女が、階段を昇り降りしながら、慌ただしく夕食の御膳を運んで行く様子が見える。

こんな人里離れた宿屋にも、日々の暮らしのための、差し迫った営みがあるのだ。

私は、ひとに課せられた業の深さ、やるせなさに、また一つ、ため息をついた。

 

A revival of the old Japanese-Style Inns in the 1919's.

 

同部屋の男は、相当着古したようなジャケットのまま、部屋の片隅にうずくまっていた。

年格好は、私とさほどの開きはない様子である。

私同様、連れはなく、荷物は小さめのボストンバッグひとつで、ジャケットの下には白のワイシャツを着て、物見遊山の出立ちには見えない。

表情がどこか虚ろで、視点が定まっていないかのようだ。

だが、私はこの見ず知らずの男に、なにか親近感のようなものを感じた。

 

夕食が、私の部屋にも配膳された。

「どうです、ご一緒しませんか」

人嫌いの私が、男に声をかけた。

「はぁ、それでは遠慮なく」

とは言ったものの、男の物腰は低かった。

私のやや斜め前に膳を近づけただけで、食事を始めた。

 

「どうですか、お酒でも」

私は、固まったような場の雰囲気を変えたくて、そう言った。

「そういける口ではありませんので、どうぞ、おやりになってください」

男はそう応じただけだった。

「そうですか。では少しやらせていただきます」 

私は、通りすがりの中居のおばさんに向かって、

「おばさん、お酒ください」

と声をかけた。

はーい、と嗄れた返事が聞こえた。

 

ビートルズが教えてくれた―岡本おさみ作品集と彼の仲間たちとの対談 (1973年)

 

「どうですか、一杯だけでも」

私は、社交儀礼を好まない。

だが、この男の鬱屈した何物かが、私にそう言わせた。

「では、一杯だけ」

男は、私の注ぐ杯を受けた。

 

その夜、私はとつとつと話し始めた男の境遇を知った。

男は、笹岡と名乗る、商社に勤める会社員だった。

人と接することが苦手で、商社マンには向いていないと思いつつも、持ち前の生真面目さで、ひたすら仕事に打ちこんできた。

あるとき、会社の上層部に、違法な汚れ仕事を押し付けられた。

それでも職を失うわけにもいかず、妻子のために、やり遂げるしかなかった。

だが、その後も良心の呵責に耐えかね、身体が悲鳴を上げた。

心を病み、仕事を休むことになった。

休職が長引くうち、会社はクビになり、妻子は出て行った。

 

ひとは、なぜこうまでして、生きていかねばならないのか?

男は、すべての弱き人びとの苦悩を、ひとり抱えこんだ。

通帳に残ったあり金をポケットに詰め、あてのない旅に出た。

このような男に、孤独はむしろ害悪であった。

 

話は、深更に及んだ。

「あなたに、こんな打ち明け話をするつもりはありませんでした。だが、こう同じ時間を過ごしているうちに、あなたなら大丈夫のような気がした」

男はささやくような声で言った。

寝静まった隣室が、気になるのである。

「私も似たようなものですよ。それでなきゃ、こんな旅暮らしをしてはいない」

私は応えた。

「笹岡さん。世捨人の生活は、私が少し先輩らしいが、あなたはなにも、私の真似をする必要はない。これからどうなされようと、あなたの道を歩けばいい」

沈黙の時間が流れた。

男は、それきり、なにも話さなかった。

部屋の障子の隙間から、白白と朝日が差しこんで来た。

 

Cape Erimo


幾年月が流れたろう。

私は、あいも変わらず、年の半分以上を旅をして暮らしていた。

自宅というのは名ばかりの、あばら家を持ってはいたが、座布団を温める間もなく、私は更なる旅の郷愁へと誘われるのであった。

けれども、時には東京の片隅にある陋屋にこもって、義理ある人に頼まれた、文筆の業に専心する事もある。

そんなある日のこと、私の家の玄関に、その男は立っていた。

紛れもない、笹岡だった。

 

まだ肌寒い春の風が、扉の隙間から吹き込んでいる。

「やっとお会いできましたよ」

笹岡は、笑っていた。

初めて見る、男の笑顔だった。

私は、坐る場所もないほど散らかった書斎から、ほとんど使っていない客間に客を通した。

「やあ、お久しぶりだ。どのくらいになるかね」

私は電気ケトルでお湯を沸かしながら、そう言った。

「何度かお訪ねしたんですが、お留守でね。四回目でようやくですよ」

「それはすまない事をした」

「いえいえ。秋本さんの旅好きは、わかっている事ですから」

 

Cape Erimo

 

お湯が沸いた。

「コーヒーにしようかね」

と私が言うと、

「そうですね。あの日以来です」

また、笹岡は笑みを浮かべた。

あの日、旅館を出たあと、駅前の土産物屋で、コーヒーを飲んだのである。 

 

「いや、驚きましたよ」

笹岡は言った。

「なにがです?」

「あのとき、詩を書くお仕事だとは伺っていましたが、かほどにご高名な方だとは存ぜずに、まったく失礼しました」

「だから気が合ったのでしょう。虚名に踊らされる身には、ありがたい事だった」

それは、私の本心だった。

「おかげで、私はまた、生きる気になれたのです」

笹岡は、そう言って、うつむいた。

こみ上げるものを、抑えきれない様子だった。

 

私たちは、テーブルを挟んで、昔語りを続けた。

やがて、私は彼が新しい妻を持ち、地道に暮らしていることを知った。 

テーブルには、二杯目のコーヒーが淹れてある。

「冷める前に、飲みましょう。うちは寒いから」

私が促すと、彼は照れくさそうだった。

角砂糖がひとつ、ティーカップの皿に乗っていた。

 

(この一文は、岡本おさみ・著『旅に唄あり』収録エッセイ「襟裳岬」等より、私が想を得て創作したフィクションです。登場する人物・出来事は、実在しないものであることをお断りしておきます。)

旅に唄あり 復刻新版

襟裳岬  吉田拓郎

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襟裳岬

ブログで短編小説を。MOON。REBECCA。

A girl picks nuclear flowers in London

MOON  

あたしの生まれた町は、空がいつも灰色に煤けていた。

町の中心部を流れる川は、工場の汚染水を多量にはらんで、油ぎったヘドロの水泡を浮かべ、顔を背けたくなるような異臭を放っていた。

あちこちにそそり立つ煙突は、夜になると一段と化学物質を大量に吐き出し、あたしたちの暮らす家の屋根に、あまたの塵埃を降り注いだ。

クラスの中には、必ず小児ぜんそくを患う子が何人かいた。

あたしはその子たちの周りで、何の疑問も抱かずに生きていた。

 

あたしの名は、あつ子。

あたしを産み育てた親たちは、そのスモッグを吐く工場で働いて生計を立てていた。

工場を経営する会社の社宅に住み、この薄汚れた町に暮らして、決して会社のことを悪くは言わなかった。

若かったママは、小さなあたしを抱き抱え、ぼんやりと夜空にかかる月を見上げ、

「ほーら、お月さまをごらん。うさぎさんがお餅をついているでしょ」

と、指をさした。

あたしは、汚れた空にかかる月を見て、思い切りうなずいた。

 

小学生のとき、美術の時間に、月の絵を描いて、みんなから嘲笑れた。

あたしの絵には、うさぎがいると揶揄われた。

クラスメイトは、 しつこかった。

いつまでも、絵のことであたしをいじめた。

 

その頃、あたしに話しかけてきた子がいた。

かおりという名のその子は、隣のクラスだった。

「気にするなよ」

かおりは言った。

手も指も短くて、体が小さくて、白雪姫に出てくる妖精みたいだった。

かおりは、たった一人の友だち。

 

Cadiz waves

 

その日は、ふたり、川と海とが混じり合う、河口へ遠出をした。

かおりはなぜか、あまりしゃべらなかった。

海岸へたどり着くと、波打ち際にほど近い浜辺に並んで座った。

「中学生になったら、あっちゃんと遊べなくなるのかな」

かおりは言った。

「どうしてなの?」

あたしは首を傾げた。

「お母さんがね、私立の中学を受けろって」

かおりは勉強の出来る子だった。

「受かったら、この町からは通えないと思うの」

かおりは泣きそうな声になった。

「あっちゃん、ごめんね。ごめんね…」

あたしは泣き崩れるかおりを、背中から抱きしめた。

「だいじょうぶ。なんとかなるよ」

「受験、やめようかな」

かおりは、ポツンとつぶやいた。

あたしは強がりを言った。

「もったいないよ、かおり。私立に行きなよ」

かおりは、コックリとうなずいた。…

かおりは、私立の中学受験で忙しくなった。

いつか、あたしたちは、遊ばなくなった。

 

Solo Factory


中学生になったあたしは、学校に行かなくなった。

理由なんてないし、どうでもいい。

そこに、あたしの居場所がなかっただけ。

大人はみんな嘘つき。

表面だけ愛想よくする。

あたしのことなんて、誰も考えてない。

仕事なんだ。

親という仕事。

教師という仕事。

大人という仕事。

そのうち、親も親戚も近所の人も、あたしをバイ菌みたいに嫌っているのがわかった。

あたしは、家にいたくなくて、街中を彷徨い歩いた。

哀しみと寂しさが、あたしを飢えた野良猫に変えた。

 

モノが欲しかったんじゃない。

万引きすることで、こっぴどく怒られたかったのかもしれない。

ある化粧品店で、ポケットにルージュを忍ばせた。

すると、いきなり分厚い手が、あたしの右腕をググッと手繰り寄せた。

あたしは、とうとう捕まった。

四方が白い壁の檻の中に入れられて、制服の大人たちから尋問を受けた。

あたしを引き取りに来たママは、嗚咽して泣いていた。

 

Stencil in Bairro Alto, Lisboa

 

その日から、あたしは本物の札つきになった。

黒い名札を首に掛けられ、世間という楽園から追放された。

誰もが他人の顔をして、あたしに近寄ろうとはしなかった。

あたしの悪い噂は、ひそひそと聞こえ、広まった。

 

こんな町にはウンザリだった。

いつでも出ていこうと、思っていた。

だけど、あてがなかった。

そんなとき、かおりが家に訪ねて来た。

 

「久しぶり」と、あたし。

「そうね、久しぶり」と、かおり。

「あっちゃんの事を、友だちから聞いたの」

他人から、自分の名前を聞くのも久しぶりだった。

「あっちゃん、どうしてるか心配になったの」

「そう」

「うん。それだけ」

かおりは、少しだけ下を向いて、微笑んだ。

あたしは、玄関口で、かおりを帰した。

かおりは、もう遠い世界の人。

あたしの心は、よく冷えた冷凍庫の中。

こちこちに凍っていた。

 

"New horizon await"

 

夜のコンビニ。

あたしが少しだけ、寛げる場所。

夏の夜風に頬を撫でられ、店の前に座りこんでいると、爆音と共に滑りこんできたバイクが目の前で急停車した。

ヘルメットを脱ぐと、男の蒸れていた長髪がバサッと首まわりに落ちた。

痩せぎすの、背の高い男だった。

店で缶コーヒーを買い、扉の外のあたしに、いきなり差し出した。

「飲めよ」

無表情のまま、男は言った。

それがテツシとの始まり。

 

そいつに知り合ってから、時間はかからなかった。

家出を持ちかけられ、ある夜、一緒に町を出た。

テツシの、250 の背中に乗って。

金持ちのボンボンっていうだけの、つまんない男。

遊ばれて捨てられても、自業自得。

それでもかまわない、とあたしは思った。

 

大人たちは、反抗しない、この薄汚れた町に。

だけど、あたしはガマンできない。

めちゃめちゃにしたい、あたしを取りまくすべてを。

顔の汚れたお月さま、バイバイ。

かおりには、言っておきたい言葉があったけど。

ひとこと、ありがとうって。

 

MOON       REBECCA

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MOON

ブログで短編小説を。バラッドをお前に。THE MODS 。

汚れた顔の天使達

バラッドをお前に

もうどれくらいになるかな、お前と出会って。

その頃、お前は女暴走族、いわゆるレディースのヘッドで、その評判はオレの耳にも入ってた。

だだっ広い駐車場のあるコンビニの前で、偶然、オレはお前を見かけた。

すげえド派手なメイク決めてて、とても女とは思えなかったぜ。

オレはむしろ、ナンパな不良で、族のお前とは格が違うって感じだった。

その頃のオレは、バカの行く私立校の高二。

永ちゃんはガチ好きだけど、森やんがオレの神だった。

 

夕闇に赤く映えてた空が、漆黒の闇に変わる。

そこは、地下にある、屋根裏部屋みたいな、狭っ苦しいライブハウスが入ってるビルの前。

ゲートが開くと客がなだれ込み、必死の場所取りさ。

開演時間が迫る。

ステージに群がり寄る野郎達に、ガン飛ばしたってなんの意味もない。

正面だけを見てる、ヤツらの岩盤みたいなフィジカルを、押しのけかき分け、オレはステージの最前列を目指した。

 

暗闇にうっすらと、電飾が点る。

ギター、ベース、ドラムが立ち位置を決め、ステージの陰影を濃くすると、照明が全開し、オレたちの英雄が姿を現す。

森やんのゲキが飛ぶ。

ビートに刻まれ、会場ごと宙に浮いたみたいな縦ノリが始まる。

その夜も、雷鳴みたいな客の叫喚に包まれ、オレらはみんな汗まみれになって、 ステージは完結した。

 

ZA MOZZ


小屋を出ると、ひんやりした夜風が鼻っ面を横切ってゆく。

そのとき、初めて我に帰る。

オレのアンプから、プラグが抜かれた瞬間。

ライブハウス前の公園は、街のネオンサインで、ぼんやり彩られてる。

終演後しばらくは、そこいらに人溜まりができる。

出待ちの女達も、あちこちに固まってる。

 

そこで、顔馴染みの連中と目が合うわけさ。

オッス、オッスてな感じで、あいさつしてゆく。

ところが、その日に限って、とんでもない野郎達に出くわしちまった。

一時期、仲間に入れって集団で来やがって、しかたねえからツルんでた連中さ。

 

オレは、ツルむって事が大嫌い。

一匹狼で少しは顔を利かせてたんだが、そういう連中には、どうしても目をつけられちまう。

アタマには、きっちりタイマン張って、抜けるって筋を通していた。

ところがアイツら、そんな掟を屁とも思っちゃいない。 

オレと出くわしそうな場所で、張ってたに違いないんだ。

おう、ここらで見かけねえ顔だなって具合さ。

インネンつけて、ヤキ入れろって飛びかかって来やがった。

 

オレはそこで、ボコボコにされた。

タイマンでは負けるから、仲間で来るって最低なヤツらだ。

イッパシの族には頭が上がらない、ハンパモン連中さ。

頭の中ではさんざんヤツらに悪態をつくが、もうオレはビシバシ全身殴られて、地べたに這いつくばり、だんだん気が遠くなりかけてた。

 

そのとき、「アンタら、それでも男かい」

頭上から、ドスの効いた女の声が聞こえた。

「おまえらみたいな腐った連中は、こうしてくれる」

たちまち、オレに群がっていたヤツらの顔に、鉄のコブシが飛ぶ。

うわぁっと男どもの悲鳴が上がって、見れば目と鼻が潰され、流血で顔中が真っ赤だ。

 

みんな、手を出すんじゃないよ、と大声でスケバンが手下にクギを指す。

すると、男どもの顔色が真っ青になるのが、オレにもわかった。

ヤツらはすっかりビビってしまい、散り散りに逃げ去った。

事が済むと、女は路上に倒れているオレに、チラッと目をくれた。

公園の街灯が、オレの情けない姿を照らしている。

それから女は仲間に声を掛け、バイクをふかして行っちまった。

 

Untitled

それから二、三日後。

突然、見慣れない番号がオレの携帯を鳴らした。

出ると、あのスケバンだった。

だが、オレにはわからない。

どういうワケで、しばかれてるオレを助けたり、番号調べて携帯に掛けたりするのさ。

そういう謎めいた興味も湧いて、オレは翌日、赤坂近くの茶店で会うことにした。

 

女が身支度に時間がかかるってのは、ホントだな。

秋の日の、土曜の昼だ。

人混みに揉まれた風が、乾いた街を大仰に吹き上げてる。

遅れて女はやってきた。

ギラついた眼でオレを見据えると、テーブル越しの席に座った。

相変わらずのどぎついメイク。 

ウェイターに「ホット」と注文。

それ以外、何もしゃべらない。

オレも無言のままだ 。

すると、わかんないよねぇ、と初めて女の表情が緩み、

「ちょっと待ってて」とバッグを持って化粧室へ消えた。

初めて女みたいな口をきいたかと思うと、便所かよ。

十分、十五分、二十分…。

何やってんだ、あのスケバン。

 

やがて、出てきた女は、まったくの別人のようだった。

スッピンの顔に、うっすら化粧をして、髪を下ろして、涼しげなワンピースに身を包んで…。

「あたし。わかんない?」

突然、記憶喪失の頭から、その顔が甦った。 

「い、いしばし、ゆみこ!」

思わずオレは、叫んでた。

中学の同級だったんだ。

「お前、化けてるから、全然わかんなかった」

お前は、必死で笑い転げてたっけ。 

NIGHT RIDER


それからは、いつもお前が、オレの心の中にいた。

お前は、中学のときからオレに気があったようだし、オレもまんざらじゃなかったんだよな。

だけど、その頃からお前は不良のマネ事をして、オレとはどこか遠い場所にいた。

お前はバイク屋の娘で、大勢兄妹のいる貧乏暇なしの家。

オレは、この町で少しは名の知れた、土建屋の一人息子。

お互いどこかで、ちょっと引いてた。

だが、この年になって、ハンパ野郎にボコボコにされてるイカれたオレを見つけて、同じ地べたで生きてるって、思ったんだろう。

 

女は不思議だ。

あれだけイキがって夜中に暴走してるお前が、オレの前では、清純派のアイドルみたいになっちまう。

オレはあのとき、お前があまりにシャイなので驚いた。

お前は、気恥ずかしそうに、オレの腕に抱かれた。

その後も、オレの顔が見れられない風だった。

未だにお前は、オレにとって謎の女だ。

 

昔、ある女優が、こんなことを深夜ラジオで言ってた。

すべての男は、最初の男になりたがる。

すべての女は、最後の女になりたがる。

 

オレはそれでいいと思った。

お前とのランデブーは、果てしなく続くように思えた。 

だが、時間はダイアモンドみたいに輝きながら、色褪せて行く、魔法のようさ。

いつか、オレは高三になってた。

 

エンゼル・ウィズ・スカーフェイス (宝島Collection)

 

オレたちは、互いのやる事なす事に、口を挟みたくなる。

お前の二重生活にも、オレは疑問を持ち始めた。

お前は、オレと族と、どっちが大事なんだ、という気持ちが大きくなる。

なぜ、そこまでして走り続けなきゃならないんだ。

バイク屋の娘だからか?

家が貧乏で高校にも行けないからか?

冗談じゃねえぞ。

 

オレの周りの、見える景色も変わってくる。

いったいオレは、いつまで親のスネをかじって、ナンパな不良ごっこを続けてるんだ。

そんな自分に、イラ立ちを覚えることもある。

お前という女が、オレにとって、かけがえのないものになるほど、日々の生活がだらしないものに思えてくる。

ある日オレは親父に、

「ちゃんと高校くらいマトモに出て、家業を継ぐんだ。それでなきゃ、さっさと家を出て行け」

と、カミナリを落とされた。

 

ちょうどその頃。

赤坂の茶店でお前に会うと、何か様子が変だ。

グッタリしたみたいに、窓の外の景色を黙って眺めてる。

オレは、何だ、はっきり言えよと迫った。

「じゃ、聞いて」

お前は、ガキができた、と小声で言った。

「マジか。それって、マジなのか」

オレは一瞬クラッとめまいがした。

潮時だと思った。

お前のために。

いや、オレのためにも。

変わんなきゃいけないと、オレは信じた。

 

The Mondo Job.


オレは、高校を出たあと、二年の間、親父の知り合いがやってる、大阪の土建屋の世話になることにした。

だが、大阪行きの事を話すと、お前は急に、ガキの事は冗談だって言い始めた。

オレは、ホントかって、何度も聞いた。

まさかお前、オレに隠れて堕ろす気かって、喉元まで出かかった。

お前もマジで怒り狂って、オレをなじった。

オレが口に出さなくても、言いたいことはわかってるって顔だった。

「あたしをしあわせにするって? なに言ってんの。あんた、自分のことしか考えてない。あたしのなにが、わかるっていうの」

お前はそう言って、泣き笑いの表情を浮かべた。

結局、ガキが生まれることはなかった。

思い出したくもない話さ。…

 

この町を離れるとき、オレはお前に言った。

族から抜けて、オレを待っててくれ。

大阪から帰ったら、必ずお前を迎えに行くから、と。

だが、そんなオレを、お前は信じてくれてたのか?

それとも、お前はオレの事なんか忘れちまったのか?

離れて暮らすと、そんなことばかり考えた。

毎夜のごとく、夢にうなされた。

お前がリンチにあって、汚される夢さえ見た。

 

あと三ヶ月。

もうすぐ帰ると、お前に手紙を出した。

返事は来なかった。

それからまもなく、昔のダチから、お前のうわさを聞いた。

半年前、道路沿いの壁に思い切りぶち当たって、それっきりだったってことを…。

オレは、お前が死んだ事も知らなかった。

知らされなかった。

泣いたさ。

ボロボロになって、泣いた。

オレは、それっきり、生きてるのか死んでるのか。

ときどき、狂ったようになっちまう。

お前のことを思うたびに、そうなるのさ。

 

バラッドをお前に  THE MODS 

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ブログで短編小説を。Fin 。 中森明菜。

Blue rose

Fin 

貴方には、爪を噛む癖があった。

出会った頃、私は貴方の、少しの仕草も見逃さなかった。

すべてが素敵で眩しくて、愛おしかった。

 

ふたりで迎える朝、起き出すなり私の唇を奪おうとする貴方。

そんなときの私は、このまま死んでもいいと思っていた。

いつまでもこのまま、一緒にいられるなら、そのまま星になってもいい。

 

ある晩、貴方は酔いつぶれて私の部屋に入って来た。

「近くで飲んでた」

そう言って貴方は、私のベッドに横になり、いくぶん荒い呼吸をしていた。

「水をくれ」

私は冷えたミネラルウォーターとグラスを持っていき、貴方の目の中を覗き込んだ。

貴方は、グッとのどを潤すと、また横になった。

 

あの癖が出た。

私は、愛おしく貴方を見つめている。

そのとき、

「ああ、やめるよ」と貴方は笑った。

そして、私を抱き寄せようと起き上がった。

私のなかの、体中を走る、心の糸が切れる音。…

 

私は、貴方の爪を噛む癖まで愛していた。

貴方は、誰に言われたの…。

 

貴方は、何も知らない子供のように、私を抱いた。

その日から、私の中の貴方は、一抹の影になった。

私の体が、その影を拒んでいるのが悲しかった。

それでもやはり、私は貴方とひとつでいたかった。

 

私は、貴方を狙うスナイパーになった。

貴方の罪状は、私の心を奪い去り、裏切ったこと。

それでも私を愛している素振りを、やめないこと。

 

貴方に抱かれるたび、私は貴方を狙撃したくなる。

いつかいつか…。殺めたい、貴方を。

 

Fin      中森明菜

Fin

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Fin (2012 Remaster)

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Fin