Fin
貴方には、爪を噛む癖があった。
出会った頃、私は貴方の、少しの仕草も見逃さなかった。
すべてが素敵で眩しくて、愛おしかった。
ふたりで迎える朝、起き出すなり私の唇を奪おうとする貴方。
そんなときの私は、このまま死んでもいいと思っていた。
いつまでもこのまま、一緒にいられるなら、そのまま星になってもいい。
ある晩、貴方は酔いつぶれて私の部屋に入って来た。
「近くで飲んでた」
そう言って貴方は、私のベッドに横になり、いくぶん荒い呼吸をしていた。
「水をくれ」
私は冷えたミネラルウォーターとグラスを持っていき、貴方の目の中を覗き込んだ。
貴方は、グッとのどを潤すと、また横になった。
あの癖が出た。
私は、愛おしく貴方を見つめている。
そのとき、
「ああ、やめるよ」と貴方は笑った。
そして、私を抱き寄せようと起き上がった。
私のなかの、体中を走る、心の糸が切れる音。…
私は、貴方の爪を噛む癖まで愛していた。
貴方は、誰に言われたの…。
貴方は、何も知らない子供のように、私を抱いた。
その日から、私の中の貴方は、一抹の影になった。
私の体が、その影を拒んでいるのが悲しかった。
それでもやはり、私は貴方とひとつでいたかった。
私は、貴方を狙うスナイパーになった。
貴方の罪状は、私の心を奪い去り、裏切ったこと。
それでも私を愛している素振りを、やめないこと。
貴方に抱かれるたび、私は貴方を狙撃したくなる。
いつかいつか…。殺めたい、貴方を。