小学校一年か二年、七つか八つの頃だった。 その人のことは、名前も容姿も声の抑揚も、はっきりと覚えている。 なぜその記憶が鮮明であるかというと、いくつか理由がある。 その頃の母との思い出が、生々しく残っていて、私は母に、その人のことが好きだとあ…

二十歳の頃。 私は、市井の凡人にすぎない。 だから、こんな私事など、だれも関心はないだろう。 だが、思春期の少年は、はたと気づけば老年を迎えている。 そんな一例だと思っていただけばよいと思い、書くことにした。 個の物語は、普遍に通じるものだ。 …