2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧
見返り美人 おまえさんの言うとおりだったよ。 わかってる、いまさらなにを言ってもしょうがない。 だから、こうやって飲んだくれてんじゃねえか。 もうやめとけ、だと。 客商売が、バカなこと言うな。 飲ませてくれ、頼むからよ。 ニ年になるかな。 オレが…
襟裳岬。耳をすますと、泣きしだく風の音が聞こえる。時にあらあらしく、時にやさしい、海岸線に打ちよせる波濤のさざめきも。日々刻刻と、空と海とが一体となり、大地の先端を色とりどりに染めあげる。私は、それらの風景の一部と化し、無機質な物体となっ…
MOON あたしの生まれた町は、空がいつも灰色に煤けていた。町の中心部を流れる川は、工場の汚染水を多量にはらんで、油ぎったヘドロの水泡を浮かべ、顔を背けたくなるような異臭を放っていた。
バラッドをお前に もうどれくらいになるかな、お前と出会って。 その頃、お前は女暴走族、いわゆるレディースのヘッドで、その評判はオレの耳にも入ってた。 だだっ広い駐車場のあるコンビニの前で、偶然、オレはお前を見かけた。 すげえド派手なメイク決め…
Fin 貴方には、爪を噛む癖があった。 出会った頃、私は貴方の、少しの仕草も見逃さなかった。 すべてが素敵で眩しくて、愛おしかった。 ふたりで迎える朝、起き出すなり私の唇を奪おうとする貴方。 そんなときの私は、このまま死んでもいいと思っていた。 い…
掌の音楽小説について。 これから、新しい試みをやってみたい。 端的に言えば、1曲の音楽をテーマに、ごく短い掌の小説、散文詩を書いてみようというものである。 曲の醸し出すオーラをソースとして、湧き出てくるイマジネーションを、物語にする。 これが…