こんばんは。デラシネ(@deracine9)です。
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が終わって、2ヶ月。
近年稀にみる名作大河だっただけあって、鎌倉殿ロスの方も多いことでしょう。
そこで、今回はドラマを振り返り、「鎌倉殿の13人」は、いかにして名作となったのかを、お話ししたいと思います。
鎌倉時代と北条義時を描いたこと。
ドラマの時代設定と主人公を決めたのは、大河3作目である三谷幸喜であったことは疑い得ないところ。
そこが大正解でしたね。
およそ大河ドラマの定番は、信長、秀吉、家康が登場する戦国時代末期、そして幕末から明治に至る動乱期。
あまりに集中しても芸が無いので、他の時代や脇役にスポットを当てたりしてきたわけです。
しかし、このたび出来上がった作品は、いかにも三谷幸喜好みの群像劇となり、映画やドラマでほとんど取り上げられたことの無い、源頼朝死後の御家人抗争が一大テーマでした。
また、ストーリーとしては、序盤に比較的馴染みのある源平合戦があって、終盤に謎の多い三代将軍源実朝の暗殺事件と、当時の最高権力者・後鳥羽上皇と新興勢力である幕府の軍事衝突、承久の乱を組み込めた。
長丁場の大河でも、十分持たせられるヤマ場をいくつも作ることができました。
これが最初のポイントでしょう。
大当たりの三谷脚本。
私は三谷幸喜のお芝居が大好きで、「笑いの大学」からこの方、20年以上にわたり観てきました。
以来三谷幸喜は、日本の演劇界を第一線で走り続けています。
特に喜劇を書かせたら天下一品で、本当に面白い。
また、年齢を重ねるごとに、シリアスな群像劇にもグンと長けてこられました。
ご自身が学生時代に旗上げした劇団東京サンシャインボーイズ時代の作品に、「十二人の優しい日本人」という喜劇があります。
これはアメリカ映画の名作「十二人の怒れる男」を下敷きにしたお芝居で、日本でも中原俊監督で映画化されました。
また、石田ゆり子、江口洋介などの豪華キャストで再演もされています。
「鎌倉殿」のネーミングも、この作品からの影響があるように思います。
三谷幸喜は、役者の個性を見極めて、たくさんの登場人物を描き分ける技量に優れた、まさに大河ドラマを書くために生まれてきたような方。
もちろん、自他ともに認める歴史好き、大河ドラマ好きです。
ただ、テレビドラマに関しては、過去に、やや当たり外れが大きい感じでした。
最近は、もう民放の連ドラを書いておられないので、昔の話ですが、「王様のレストラン」や「古畑任三郎」に代表される大ヒットドラマがある代わり、コケるドラマも結構ありました。
私が思うに、三谷幸喜好みのツボがあって、お若い頃は当然、それが顕著に出ていたように思います。
比較しては失礼ですが、最近、周防正行監督の「Shall We ダンス?」を久しぶりに観て、あらためて思ったことがあります。
笑いには、クスクスと、ニヤッというのと、ハハハというのと、大まかに3種類あると思うのです。
三谷幸喜と周防監督共に、大爆笑のハハハは基本ありますが、クスクスは三谷幸喜、ニヤッと笑うのは、周防監督だと思うのです。
(ちなみに、常にハハハを取った方が、落語家の桂枝雀師匠だと思います。)
これをもう少し突っ込んで言いますと…。
周防監督はニヤッと、つまり共感の笑い。
私もそうなんだよ、これっておかしいよね、つまり普遍性のある笑いです。
これだとハズレが少ないんです。
一方、三谷幸喜はクスクス、つまり感性の笑い。
おもしろい、コレって私しかわかんないかも、でも笑えるーって感じ。
つまり、通好みなんです。
だから、わからない人にはわからない。
だから、ハズすときはハズしまくりなんです。
たとえば、舞台版「笑いの大学」。
(今、再演されてるやつです。)
この中で、検閲官の向坂(さきさか)が、カラスの夫婦を飼っていると話しているところ。
向坂は、オスのカラスに、「ムサシ」という名前を付けているんです。
そこに、メスのカラスがやって来て、向坂はメスのことを「お通さん」と呼ぶんですね。
ふつう、はあ? となるでしょうが、吉川英治の時代小説「宮本武蔵」を読んでいたら、宮本武蔵の恋人が、「お通さん」だとわかっている。
これが、わかる人にはめちゃウケるわけです。
初監督作品の映画「ラヂオの時間」。
映画の中の、細川俊之がラジオ局の階段を、カニ足で一段ずつ急ぎ降りて行く場面。
これも、私的には非常にウケたのですが、面白くない人には全然面白くない。
三谷幸喜好みの知性や感性があるか無いか、いわゆるツボが同じかどうか。
三谷幸喜の場合は、これが大きい。
そこで、今回の鎌倉殿です。
さすが三谷脚本、貫禄の大当たりを取りました。
これだけのキャリアがある方ですから、もうここだけ遊ぼう、みたいな自在な脚本術で、笑えたり泣けたりシリアスさも極上で、ハズし方さえわかってらっしゃる。
これに尽きますね。
歴史を知らなくても楽しめる。
大河ドラマが当たるときは、必ずこの法則が生きています。
その一。主役や脇役が実力者であり、その後のブレイクに繋がるほどの名演を見せたとき。
過去の大河の主役では、「龍馬伝」の福山雅治、「篤姫」の宮崎あおい、「太平記」の真田広之、「黄金の日日」の市川染五郎(現・松本白鸚)などが印象的です。
脇役ではキリがありませんが、最近では「麒麟がくる」の川口春奈、染谷将太がなかなかの好演でした。
そこで「鎌倉殿」です。
主役は、小栗旬。圧倒的な存在感でした。
北条義時は、北条時政(坂東彌十郎)の次男坊。
土蔵の所蔵品を整理するのが趣味のような、野心のかけらも無いような男。
そんな地味な男が、次第に源頼朝(大泉洋)の感化を受け、権謀術数に長けた冷徹な政治家へと変貌してゆく様子を、見事に演じ切りました。
終盤における悪役然とした風貌とその貫禄は、まさしく晩年の義時を彷彿させます。
そしてワキが素晴らしかった。
その武者振りを観るだけでも価値があるいい男が揃い踏みでした。
まず、中川大志。
坂東武者の中でも知勇兼備の名将・畠山重忠を演じました。
ともかく、男の色気がすごかった。
二俣川の合戦では、小栗旬演じる義時との一騎打ちが圧巻でした。
(もちろん、大将同士の戦いなんてあり得ませんから、まったくの虚構です。)
そして、市川隼人。
下野(しもつけ)国の御家人で、13人の合議制の一人にも選ばれた八田知家を演じました。
知家は、二代将軍源頼家(金子大地)に命じられ、頼朝の弟・阿野全成(新納慎也)を斬殺したり、土木建築の技術に長け、源実朝(柿澤勇人)の命じた唐船建造にも一役買います。
ドラマでは、三浦義村を演じた山本耕史とともに、上半身の筋肉美のたくましさで話題になりました。
山本耕史。
この方は、三谷作品の常連。
北条義時のいとこで、幼なじみの三浦義村を演じました。
非情なる策略家で、したたかに御家人闘争を生き抜く三浦義村を、まさに義村かくありきかと思わせる名演でした。
私は三谷芝居「オケピ!」(2000年・青山円形劇場)で舞台を拝見しました。
源義経を演じた菅田将暉。
実の弟でありながら、源頼朝が最も警戒した天才軍略家であり、悲劇的な最期を遂げた義経。
超売れっ子の役者である菅田は、源義経がよく似合っていたと思います。
彼は、大河枠の特番で、源義経のことを嵐のように駆け抜けていったロックスターに喩えていました。
菅田の演技は、一貫して安定しており、どんな役も自分のものにしている。
いずれ大河の主役を張るであろうと思いますが、ぜひとも良い脚本に恵まれて欲しいと思います。
名脇役を挙げていくとキリがないので、最後に二人、架空の人物を挙げます。
殺し屋・善児を演じた梶原善。
善児は、源頼朝(大泉洋)と八重(新垣結衣)の子・千鶴丸を始め、北条宗時(片岡愛之助)、伊東祐親(浅野和之)、頼朝の弟・源範頼(迫田孝也)、源頼家(金子大地)など、次々と死んでゆく人物たちを、まとめて始末する殺し屋として、三谷幸喜が設定した人物。
主人を変えながらも、飄々と人を殺してゆく姿が、まさに殺し屋にふさわしい演技でした。
梶原善は、劇団東京サンシャインボーイズ時代から、三谷幸喜作品には欠かせない役者です。
今から25年ほど前、PARCO劇場で上演された舞台に「温水夫妻」という作品がありました。
これは、三谷芝居の中でも、一度も映像化されていないレアな芝居です。
テーマは太宰治。
唐沢寿明が太宰治を演じ、脇役として梶原善が付きました。
当日券があって、たまたま私は観劇できました。
善さん、名脇役振りは今も昔も変わらない、すごい役者さんです。
温水夫妻・公演パンフレットより。
善児の女弟子・トウを演じた山本千尋。
トウは、九の一。
「修善寺」で善児が源頼家暗殺をしくじったとき、「父の仇」と叫んで善児の息の根を止めました。
いったい、誰の子だったんだ?
そう思った方、多いと思います。
私もわからぬまま流して観てましたが、総集編で、ハッキリわかりました。
かつて、源頼朝の命により、善児は頼朝の弟・範頼を修善寺で暗殺。
そのとき、範頼もろとも殺された家人達のむくろの前に、ひとり泣いている女の子がいる。
この子がトウなんだ。
やっとわかりました。
長丁場だから、傍流のストーリー全部の伏線を理解するのは、なかなか大変ですね。
作品のファンであっても見落としがち。
総集編だからこその面白さがありました。
ちなみに、山本千尋は、少女時代に武術太極拳の選手で、世界ジュニア大会で何度も優勝している殺陣のエキスパートらしいです。
どおりで❗️
第38回の、山本耕史との格闘シーンはすごかったですね。
その二。家族の物語であること。
過去の大河では、橋田壽賀子の書いたものは基本、そうですね。
女性が主役のときも、おおむね同じ。
「おんな太閤記」(脚本・橋田壽賀子)「春の波濤」(脚本・中島丈博)「山河燃ゆ」(脚本・市川森一)などは、特にそんな印象です。
なぜ、家族ドラマがウケるかと言えば、理由は明白。
家族の物語には普遍性があり、誰しもが思い当たる、心の琴線に触れるからです。
「鎌倉殿」について、三谷幸喜が、自ら言ってました。
「サザエさん」に例えると、カツオがサザエさんと組んで、波平さんを追い出す話。
北条一族は、一致団結し頼朝を担いで蜂起するのですが、ライバルの一族を次々と追い落としていくうち、ついに身内同士の権力闘争に発展していく。
かつての身内であった頃の一体感は、はるか昔のものになってしまう。
そんなとき、親父の北条時政が娘・政子(小池栄子)の館を訪れる。
義時もやってくる。政子の妹・実衣(宮澤エマ)も。
最後の一家団欒を過ごしに、時政がやってきたのです。
みんなで鍋を囲んで、今は亡き頼朝の子・大姫の口ぐせの呪文を思い出し、大笑いする。
それが、第37回「オンベレブンビンバ」でした。
衝撃のラストシーン。
名作となった理由は、ここにもあります。
最終話の北条義時と政子のラストは、よくできていました。
あれだけの長回しで、相当な集中力を要する演技だったと思います。
実に演劇的な、大河ドラマ史に残る、エンディングだったのではないでしょうか。
これを観て思い出すのは、「太平記」(脚本・池端俊策)で、兄・足利尊氏(真田広之)が実弟・足利直義(高嶋政伸)を毒殺するシーン。
こちらも室町幕府のニ巨頭となった二人が、兄弟で「観応の擾乱」と言われる内乱を繰り広げるわけですが、これも記憶に残る名場面でした。
尊氏は、自ら毒を盛った直義が、苦しみ死んでゆく姿を目の当たりにしながら、直義に向かい、なぜ逆らったのかと激しく泣き叫びます。
大きな権力を持つがゆえに、自分ひとりの考えでは動くことができない。
自分に付き従う郎従、家人の意向に振り回されてしまう、悲しい権力者の性(サガ)が描かれました。
ここまで、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」について、私なりにその魅力を振り返ってきました。
ですが、「鎌倉殿」の面白さはこれに止まらず、まだまだ語りたいことがたくさんあります。
ドラマは完結をみましたが、歴史物語の続きはどうなるのか?
北条泰時や三浦義村は? 鎌倉幕府は?
そう思われる方も多いのではないかと思います。
また、ドラマに描かれた物語と史実との落差がどれくらいあったのか?
ドラマは、史実とされる出来事の間の空白を、どのような虚構で埋めていったのか?
ここらも歴史に興味ある方には、面白い部分です。
そこらのところは、次回、PART 2 でやりたいと思いますので、今回はこれで終わりにします。
それでは、このへんで。
おやすみなさい。
(文中、敬称は略しました。悪しからず。)