こんばんは。デラシネ(@deracine9)です。
本日は、 おらの「あまちゃん」論 PART 4 。
さすがに、マニアック過ぎますか?
そんな巷の声にもめげず、どんどんいきます。
それでは、1曲目。
アキが上京して所属する、GMT6 のメンバーと共に。
暦の上ではディセンバー アメ横女学園 plus GMT6
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この曲は「あまちゃん」東京編のメインとなる劇中歌。
実際に歌っているのは、ベイビーレイズというグループで、9月に解散するとか。
アメ横女学園は口パクなんだ、と最近知った次第。
GMT のメンバーでは、のん(能年玲奈)は別格として、松岡茉優が可愛いな。
今では是枝裕和監督「万引き家族」にも出演して、大ブレイク。
「あまちゃん」の頃から見れば、すっかり大人っぽくなった。
スネに傷持つ大人たちの癒しの物語。後編。
「あまちゃん」は、琥珀のように重層的で、登場人物それぞれの視点から、ドラマを深く掘ってゆくことが出来る。
前回は、スネに傷持つ大人の代表格、天野春子の目線から、北三陸編までを読み解いてきた。
ここでは、東京編以降の春子の物語を見ることにする。
春子の分身・ユイの物語。
春子にとって、天野アキ(能年玲奈)と足立ユイ(橋本愛)は、リアルな現実世界では登場しない、奇跡的でフィクショナルな癒しをもたらすために現れた、守護天使の如き存在である。
東京編で、アキは上京するが、ユイは数々のアクシデントに見舞われ、決して東京へ行くことが出来ない。
それは、なぜだろうか?
ユイが東京を目指して、それを阻まれた経歴は、下のとおり。
- 修学旅行のとき、風呂場で転び、骨折して行けなくなる。
- 兄・ヒロシ(小池徹平)が東京で就職したが、2か月で戻って来て、遊びに行けなくなる。
- アキが東京に帰る事なく北三陸で暮らす事になり、遊びに行けなくなる。
- 芸能事務所のオーディションを受けるため、スカウトの水口琢磨(松田龍平)と計らい秘密裡に上京を企てるが、町おこしのシンボルの流出を阻む大人たちに阻止される。
- アキと二人で芸能プロの社長・荒巻(古田新太)に会いたいと言われ、再度大人たちの目をかいくぐって上京を企てるも、東京行きの深夜バスのはずが袖が浜止まりのバスで、またも大人たちに捕まる。
- 夏ばっぱ(宮本信子)が地元の大人たちを説得し、地元公認のもと、荒巻太一のプロダクションと契約し上京する日、父親(平泉成)が倒れ、上京を取りやめる。
- 父親のリハビリが一段落して上京しようとするが、直前に母親(八木亜希子)が失踪し、心が折れて行けなくなる。
- 夏ばっぱのお供で東京に遊びに行くはずだったが、失踪した母親が東京にいると分かり、顔を合わせたくないことを理由に取りやめる。
- アキがデビューコンサートを行うことになり、招待されて東京へ向かう北鉄の車内で、震災に見舞われる。
この fateful affair の連鎖は、なにを意味するのか?
ユイは、永遠に北三陸を出ることができない。
運命の糸に縛られた、オウィディプス王か、太陽に憧れながら、近づこうとすれば身を焼かれる、イカロスの翼さながらに。
父親が脳梗塞で倒れたときは、まだ快復次第で上京するつもりでいた。
しかし、母の失踪で、ユイの心は壊れる。
髪を脱色し、不良仲間とつるむようになり、翼の折れた天使は下界へと転落する。
光輝いていたミス北鉄の美少女の面影は、無残にも打ち砕かれる。
ここで、ユイを救うことの出来る者。
それは、若き日にこの町でやさぐれ、スケバンであった春子しかいない。
春子は、ひとり燈台の下で、故郷への憎しみを募らせ、長いスカートを引きずって、パーマをかけていた若い頃の自分に、ヤンキーとなったユイをダブらせずにはいられない。
アイドルになる夢を断たれ、傷心のまま北三陸に帰ってきた春子だけが、ユイの心を理解できる。
若き日の春子役・有村架純
ユイが口紅を万引したところを捕まえた春子は、元スケバンの貫禄で、ユイをグイグイ引っ張って、喫茶リアスに連れて行く。
あばずれの食いもんだよ、とスパゲティ・ナポリタンの皿をユイの前に投げ出す。
そして、東京にいるアキに電話を入れた振りをして、ユイのプライドを呼び覚まそうとする。
元腫れ物の春子は、腫れ物となったユイへの、最も効果的な接し方を知っている。
春子は説教のあと、様子を伺っていたリアスの常連の男たちに、こう告げる。
「今だよ、慰めてやんなよ」
腫れ物になったユイ。(橋本愛)
ここは、以前、春子に向かって駅長の大吉(杉本哲太)や副駅長の吉田(荒川良々)が、ユイをどんなタイミングで慰めてやればいいのかわからないと嘆いていた場面の、アンサー・シーンである。
それからの日々、春子は長い時間をかけて、心の折れたユイを更生させる。
春子は、ユイを救い上げたに見えるが、実は春子が救い上げ更生させたのは、若き日の春子自身なのだ。
ユイは、結果的に、春子のスネの傷を癒す役割を果たすことになる。
2曲目。
SALLY の懐かしのヒット曲。
はっきり言っちまうと、チェッカーズの二番煎じバンド 。
でもこれは名曲だよ。
バージンブルー SALLY
憶測に過ぎないけれども、これはオケだね。
彼らがレコードとまったく同じ演奏技術で、生演奏できるとは思えない。
サックスの二人が、音が鳴っているパートで、指を押さえていないように見えるのも気にかかる。
メンバーやファンの皆さん、間違ってたら、ごめんなさいね。
でも、こんなのは当たり前だったのが、ひと昔前の芸能界だった。
ザ・ベストテンの常連だったツイストの、「鉄爪(ひきがね)」という大ヒット曲があるが、レコーディングでリードギターを弾いていたのは、メンバーではなく、芳野藤丸だったらしい。
甲斐よしひろが、サウンドストリートで、藤丸本人から聞いたと言ってた。
甲斐が当時、テレビへの露出を極力避けたのは、こういうのがテレビだったからだな。
ロッカーとしての気概を感じるね。
アキの上京物語。春子の過去との遭遇。
東京編、東京から北三陸編でも、春子の人生に大逆転を起こす物語を引っ張るのは、アキとユイである。
次はアキの出番だ。
そこで登場するのが、若き日の春子との因縁を持つ二人。
アキが契約した芸能事務所の社長・荒巻太一(古田新太)は、春子がアイドルを目指して東京生活を送っていた頃、唯一知り合った芸能事務所のスカウト。
荒巻こそが、音痴な鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の「影武者」として、春子に「潮騒のメモリー」を歌わせた影の存在であり、春子のデビューを阻んだ相手だった。
荒巻は、鈴鹿ひろ美を世に送り出した功績により、知名度を上げて独立。
今や、大ブレイク中のアイドルユニット・アメ横女学園をプロデュースして、業界に大きな影響力を持つ存在。
そしてもう一人は、春子に「潮騒のメモリー」の歌声を盗まれた、鈴鹿ひろ美。
彼女は、アキがレッスンに励む上野の劇場そばにある「無頼鮨」の常連で、そこで知り合ったアキを気に入り、付き人にする。
この二人、実は、荒巻が鈴鹿ひろ美のマネージャーをやっていた頃からの恋人同士であり、鈴鹿のおかげで出世した荒巻は、彼女に頭が上がらないのだ。
アキは戻ってきた東京で、若き春子の下積み時代に密接な関係のあった二人と、深い関わりを持つことになる。
春子の大逆転(逆回転)物語。終盤戦。
アキは東京の荒巻太一の芸能事務所で、下積み生活を送っていたが、ようやくデビューが決まる。
荒巻のプロデュースするアメ横女学園のセンターだった子(マメリン・足立梨花)が、総選挙の結果順位を下げて、妹分のGMT のメンバーに加わったからだった。
しかし、マメリンの恋人との交際が週刊誌にすっぱ抜かれ、荒巻はGMT のデビューを見送ることにする。
それに怒ったアキは、なぜデビューを中止にするのかと荒巻に食ってかかる。
春子の手紙によって、荒巻と春子の過去を知っていたアキは、自分が天野春子の娘だからですか、と荒巻に詰め寄る。
ここにおいて、荒巻役の古田新太はヒールに徹している。
この一件で、アキは解雇されてしまうのである。
アキからの電話でその事を知った春子は、突如上京。
鈴鹿ひろ美が行きつけの「無頼鮨」で、鈴鹿ひろ美と初めて顔を合わせ、そこに荒巻までが現れるという怒濤の展開。
ここは、大人の事情を抱えた三人の丁々発止の会話劇に、アキが極度の緊張感でパニクってしまうという、最高に笑えるシーン。
この薬師丸ひろ子と小泉今日子の非常にテンションの高い芝居のさなかに、あとから登場する古田新太は、ここで NG を出すわけにはいかないと、緊張したと言う。
(「『あまちゃん』完全版シナリオ集 24巻 古田新太スペシャルコメント」より。)
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解雇の理由を問いただされた荒巻は、鈴鹿にアキの解雇撤回を求められ、一度は解雇を免れる。
しかし、荒巻のプロデュース手法に不満を抑えきれない春子は、アキを連れて荒巻の事務所を飛び出し、アキひとりのために芸能プロダクションを設立。
北三陸編では、頑なにアキのアイドル志向に拒絶反応を示し、ヒール役だった春子だが、母・夏との和解の後は、アキのアイドルへの夢を強力にバックアップする。
ここからアイドル志望だった春子の本領が、いかんなく発揮される。
ナレーションにもある如く、それは自分を日陰の存在におとしめた連中への、まさに復讐劇。
鈴鹿の「潮騒のメモリー」を影武者としてレコーディングしたときに立ち会ったスタッフ連中からゲットした名刺を武器に、鈴鹿ひろ美の歌声の秘密をネタにして、アキの仕事を取ってゆく。
まさに元スケバン・春子の面目躍如、「七人の侍」を集める志村喬である。
その中からアキが選んだのは、「見つけてこわそう」という幼児向け教育番組。
壊したモノをVTR の逆回転で復元し、子供にモノの大切さを教えるというのがコンセプトの番組である。
その中で、アキは壊したモノを「逆回転」によって復元させるという特殊な能力を持っている。
この「逆回転」の能力こそが、春子の人生に大逆転をもたらすアキの役割を、シンボライズしている。
その後、春子は自分が成し遂げられなかった夢を、アキの事務所の社長として、叶えることになる。
3曲目。
松田聖子と並ぶ、80年代アイドルの双璧。
なぜか「あまちゃん」には登場しない中森明菜。
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「あまちゃん」は、人と人との絆の再生の物語。
アキとユイがもたらす奇跡は、春子ばかりとは限らない。
半年かけて描かれているのは、春子と母・夏、春子と夫・黒川正宗(尾美としのり)との絆の再生。
そして、過去のわだかまりを抱えて生きてきた大人たち。
結果的に春子を裏切りデビューさせられなかった芸能事務所の社長・荒巻太一。
他人の歌声にデビュー曲を差し替えられた鈴鹿ひろ美。
鈴鹿ひろ美の影武者として芸能界を去ることになった天野春子。
それぞれが過去の呪縛から解き放たれるという奇跡の物語。
それが「あまちゃん」の重要なファクターを成している。
アキの主演映画、リメイク版「潮騒のメモリー」の同名主題歌のレコーディングのとき、鈴鹿ひろ美は荒巻から、かつての歌の影武者を務めたのが春子だったことを初めて知らされる。
そこで春子に向けて発せられた、
「私のせいで、表舞台に出られなかったんですよね」
という万感の想いを込めた鈴鹿の言葉が、すべてを物語っている。
その言葉で、傷ついていたのは春子だけではなかったのだと、ハッとさせられる。
鈴鹿は「潮騒のメモリー」を歌っているのが影武者であることに気づいていたのだ。
その後の展開で、春子は鈴鹿から、春子の事務所に所属したいと懇願され、それを受け入れる。
影武者から所属事務所の社長へ、という大逆転(逆回転)のドラマは、ここに頂点に達する。
若き春子の相談役だった荒巻は、恋人・鈴鹿ひろ美の影武者スキャンダルをどうしても表面化させたくなかった。
そのために、春子を飼い殺しにして裏切ったという、うしろめたさに苛まれてきた。
そこへ突然現れた春子の娘・アキの存在に、荒巻は激しく動揺する。
その後、再び目の前に現れた春子と激しく対立する荒巻だが、アキを娘のように可愛がる鈴鹿ひろ美の導きで、結局は、自分が企画立案した映画「潮騒のメモリー」のリメイク版のオーディションで、アキを主役に抜擢する。
それによって、荒巻は春子への贖罪を、曲がりなりにも果たしたのである。
鈴鹿ひろ美は、自分の歌が他人の声に差し替えられたことへの想いを、長い間封印していた。
ところが、アキを通じて、かつての自分の影武者、春子の声と出会ってしまった。
にわかに鈴鹿が歌うことにこだわり始めるのは、それからだ。
そして、その春子にレッスンを受けて、北三陸の海女カフェで震災復興支援のチャリティーコンサートを決行する。
本番では見事な歌声を披露して、荒巻や春子を驚かせる。
鈴鹿ひろ美が、自分が抱えていた、長年の苦悩から解き放たれた瞬間だった。
最後の曲。
まさに、「あまちゃん」の鈴鹿ひろ美役に被ってる薬師丸ひろ子。
本物は、天使の歌声だったんだよね。
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防波堤の突端に書かれた「STOP 」の文字。
毎回、オープニングのラストで燈台が登場する。
この燈台のある突端が、若き春子の秘密基地だった。
そこで「海、死ね、ウニ、死ね」と落書きし、故郷の町を呪った。
そこには、白いペンキで書かれた「STOP」の文字がある。
東京行きを阻む海と陸との境界線が、春子の居場所であったのだ。
だが、毎回流れるオープニングのアキは、タイトルエンドで、その場所に佇み、青い空を見上げて笑っている。
アキはその行き止まりの突端から、三度、海へダイブしている。
一度目は、北三陸に来たばかりの頃、「地味で暗くて存在感も協調性も個性も華もない」自分の殻を破ろうと、自分の意志で。
二度目は、父・正宗が東京からやって来たとき、逃げ場所がないまま。
三度目は、種市浩一にフラれたとき、ET のように自転車で空を飛びながら。
春子の分身のアキは、春子が飛べなかった境界線をやすやすと超えている。
よーく目を凝らすと、燈台の下の潮風に晒された「STOP」の文字は、3つ目の「O」が半ば剥げかけて、「STEP」とも読める。
「STOP」を「STEP」とも読めるよう仕掛けたのは、演出の井上剛だった。
アキは春子とは違い、この境界線を飛び越える存在であることが、初めから暗示されていたのだ。
このエピソードは、細馬宏通の著書「今日の『あまちゃん 』から」の中の細馬宏通と「あまちゃん」の演出を担当した井上剛の対談の中で、細馬宏通に問われて井上剛が真相を明かしたもの。
美術スタッフの苦労が報われる、と井上剛は語っている。
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「あまちゃん」の最終話のラストシーン。
アキとユイは、この長い堤防を二人して駆け抜け、燈台の下「STOP」の文字の上で立ち止まる。
そこには、二人のどんな想いが込められていたのだろう。
やっと二人でここまで来たね。
やっと二人で、スタート地点に立てたんだね。
今、私らは、そのボーダーラインに立っている。
今なら、いつでも超えられる。
本当の物語は、ここから始まるんだよね…。
私には、波の音に混じって、そんな二人の会話が聞こえてくる。
皆さんは、どう感じましたか?