MIDNIGHT HERO

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ロッカー・辻仁成の歌。未来へと続く、魂のメッセージ。

GOLD WATER -The Best of ECHOES-

こんばんは。デラシネ(@deracine9)です。

 本日は、ロッカー・辻仁成の歌と題してお送りします。

現在、パリで息子君と暮らしている辻仁成は、作家、映画監督としてよく知られていますが、初めはロッカーとして登場しました。
 
それをご存知の方も多いと思いますが、実際に曲を知っている人は少ないのではないか。
今の彼しか知らない人達にも、かつてのロッカー・辻仁成の歌を聴いて欲しい。
 
なぜなら、そこには永遠に滅びない詩があり、現代を生きる君にも通じる熱いメッセージがあるから。
では、1曲目。

GENTLE  LAND    ECHOES

GENTLE LAND

GENTLE LAND

  • ECHOES
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

私が辻仁成を語るには、まず私自身の事から始めなければならない。

 

10代の私は、自分の肉体と精神に、非常な弱さを感じていた。

自分がこの世の中で生きていけるのか、不安で一杯だった。

 

太宰治、曰く。

私は散りかけてゐる花瓣であつた。

すこしの風にもふるへをののいた。

人からどんな些細なさげすみを受けても死なん哉と悶えた。

「思い出」

そういう神経過敏な子供でありながら、他人事には非常に鈍感で無神経、そんなところがあった。

若き日に、私は自意識との闘いに疲れ果て、倦んでいた。

心を病み、精神科の思春期病棟のような病院にいた事もある。

 

そして、20代。

まだまだ、この世の中で生きて抜いていけるのか、不安でたまらない。

しかし、私には、幼い頃からの夢があった。

 

それは、小説家になりたい、という一事であった。

WELCOME TO THE LOST CHILD CLUB

WELCOME TO THE LOST CHILD CLUB

  • ECHOES
  • ロック
  • ¥2139

私は父親に向かい、東京へ行って作家を目指したい、と直談判に及んだ。

しかし、苦労人であった父は、私の本音を見抜いていた。

 

明日、生きていく自信さえ持ちえない自分が、唯一人、大都会の真ん中で生きていく事など、私自身が信じられなかったのだ。

 

父は、巧みに私の本心を刺した。

 

私には、言い返す言葉も信念も、持ち合わせがなかった。

 

その後、私は故郷の地で勤め人となって、実社会に出た。

勤めながらでも、文学の修業は出来ると思ったのだ。

 

そして、 2年余りが過ぎた頃、私はひとつの小説に出会った。

 

それが辻仁成の「ピアニシモ」だった。 

 
2曲目。

カッティング・エッジ   ECHOES 

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カッティング・エッジ

カッティング・エッジ

  • ECHOES
  • ロック
  • ¥250
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HEART EDGE

HEART EDGE

 
辻がエコーズを中心に活動した時期は、私もまた、自分自身の世界を築こうと必死だった。
 
その頃、私は音楽を意識的に遠ざけていた。
 
文学の世界に、軸足を置くためだった。
 
辻の処女作「ピアニシモ」が「すばる文学賞」を受賞し、世に出たのは、そんな時だった。
 
それを読んだとき、私の中に衝撃が走った。
 
私の中に鬱屈していた、やり場のないエネルギーを一気に爆発させる、新しい感覚がそこにはあった。
 
描かれているのは、いつの時代にもある、普遍的でスタンダードな、青春期の自我の確立や、都会の中の孤独というテーマ。
Dear Friend

Dear Friend

  • ECHOES
  • ロック
  • ¥2139
わかりやすく言えば、それだけの、身も蓋もない事になってしまうが、その時代には、現代を生きる若者達が心から共鳴できる、まっとうな青春文学が存在しなかった。
 
本を手に取り経歴を見れば、著者は現役のロックミュージシャンであると知った。
 
以来、私は辻の小説とエコーズの楽曲にどっぷり浸かる事になる。

山田太一さんの言われるように、言語芸術が、現代の若者に与える影響力を失ってきている。
 
私は辻の小説に、今の若者達へとダイレクトに繋がる、音楽から言語芸術への架け橋となる可能性を見たのだった。
ピアニシモ (集英社文庫)

ピアニシモ (集英社文庫)

 

 この小説は、エコーズの曲を、そのまま文学に具現化したような作品だった。

 

私がロックバンド・エコーズを知ったのは、辻の「ピアニシモ」を読んでから。

 
しかも、小説を知り、音楽を聴き始めるタイムラグがあったゆえに、私がエコーズの楽曲にハマりだしたときには、エコーズは解散してしまっていた。
 
現代の情報化社会から見れば、秒殺で情報をキャッチする事は、とてつもなく困難な時代だった。
私は解散したバンドの活動歴や当時の世評について、知るところは何もなかった。
 
その結果、エコーズの音楽は、私の主観の中で純粋培養され、私の血肉となっていった。

私が惹きつけられたのは、その音楽性もさることながら、その時代への批判精神と、常に時代を先取りしているという、辻のみなぎる矜恃だった。
 
3曲目。
こんなバラードの傑作もある。

友情    ECHOES 

友情

友情

  • ECHOES
  • ロック
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HURTS

HURTS

 

 エコーズのアルバムを1作目から追ってゆくと、最初の「WELCOME TO THE LOST CHILD CLUB」、2枚目の「HEART EDGE」と、楽曲のクオリティは最初から非常に高いと感じる。

 

詞の世界もサウンドも前衛的であり、メッセージ性が極めて濃い楽曲が並ぶ。

 

中でも「アフタースクールコミュニケーション」は、ハッカーや引きこもりなど、未来を予見する言葉が散りばめられた、初期のエコーズを象徴する楽曲として、語られることが多い。

 

デビューアルバムのジャケットの帯に書かれたキャッチ・コピーには「諦めてしまう前に オレ達と組まないか」とあり、「恐るべき子供達へ」という曲の中でも「ガラスを割る前に オレ達と組まないか」という詞がリフレインされる。

No Kidding

No Kidding

  • ECHOES
  • ロック
  • ¥2139

これは明らかに、同じレーベルに所属していた尾崎豊を意識したものだ。

 

80年代にあって、尾崎にはない「連帯」という異なる抵抗の枠組みを、バンドのステイトメントとして登場した彼らが、異色の存在であったことは想像に難くない。

 

メッセージ性を色濃く主張するロックバンドとしての立ち位置は、甲斐バンド、レベッカ、尾崎豊も同様だったが、時代を先取りして行く、敢えてメジャー志向を拒否する姿勢が、エコーズというバンドの特異性を、際立たせていたと言える。

 

4曲目。

Mr.Children の桜井和寿が、エコーズの曲の中でも特に影響を受けたとされる佳曲。

SOME ONE LIKE YOU    ECHOES 

SOMEONE LIKE YOU (New Version)

SOMEONE LIKE YOU (New Version)

  • ECHOES
  • ロック
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GOLD WATER The Best of ECHOES

GOLD WATER The Best of ECHOES

 

この曲は、3枚目のアルバム「No Kidding」に収録されているが、解散を前にリリースしたベストアルバム「GOLD WATER」にセルフカバーが新録で入っている。

 

辻は、5作目のアルバム「HURTS」あたりから、ヴォーカリストとして急成長を遂げた。

 

あえて初期のアルバムの難点を挙げるとすれば、辻のヴォーカルの生硬さと音の全体的な軽さにあったと思う。

 

辻の発声といいサウンドの重量感といい、この新録バージョンは圧倒的に素晴らしい出来映えだ。

GOLD WATER -The Best of ECHOES-

GOLD WATER -The Best of ECHOES-

  • ECHOES
  • ロック
  • ¥2139

 

このベストアルバムには、そのほか、1作目から3作目までに収録の「JACK」「BETWEEN」がニューバージョンで収録されており、ロック・ヴォーカリストとしての辻は、別人のように変貌した事が窺える。

 

アルバムも、新作のリリースごとに完成度は高まり、それまでのエッセンスにオーディエンスへのダイレクトなメッセージを発信する、骨太な楽曲へとモデルチェンジを重ねてゆく。

 

惜しむらくは、バンドが円熟期に入り、 ピークに達したと同時に解散してしまったのが残念でならない。

 

しかし、それは作家・辻仁成の誕生とともに、そうなりゆく宿命にあったのだとしか、今は言い様がない。

EGGS

EGGS

  • ECHOES
  • ロック
  • ¥2139

 

5曲目。 

これは、1991年の日比谷野音、ラストライブのオープニングナンバー。

残念ながら、デジタル音源にはなっていない。

Warrior    ECHOES    

口笛を合図に攻撃が加えられた

コンクリートジャングルの Warrior

あくびはエスケイプ くしゃみはシュプレヒコール

俺たちの合図さ Warriors

Warriors  Warriors  Warriors  Insane

 

落ちこぼれの俺たちは 失業者みたいなものさ

解雇される心配もないよ

組合のバッジを付けた ヒステリックな教師たちへ

教えてやろう Warriors

Warriors  Warriors  Warriors  Insane

詞・曲 : 辻仁成 

20代後半、エコーズの曲は、私の夢の伴走者であった。

その渇いたメロディと詞は、私の10代の経験を彷彿させ、それを文学に昇華させ得ることに希望を与えてくれた。

 

それが、私にとっての辻の小説作品であった。

 

今、あれから30年近い時を経て、そのデビュー作のページをめくってみると、そこには気恥ずかしいほど、自己愛や自己憐憫を、そのテキストから読み取っていた自分が透けて見える。

HURTS

HURTS

  • ECHOES
  • ロック
  • ¥2139

 

結局のところ、何を媒体にしたところで、人はその中に今生きている自分自身を発見するに過ぎない。

 

もしそこに、この全宇宙を見晴るかす才能があり得たとしても、自己を通すことでしか、その存在を知る事は出来ないのだ。

 

誰にも知られないところで、私はひそかに、エコーズという解散してしまったバンド、辻仁成という表現者と、グルになって共闘した。

 

この磁場でなら、きっと存在できる、闘える。

 

私は、生まれて初めて、世の中に存在していける、との確信を得る事ができた。

 

このあと、この世の中でどんな事に遭遇しようと、私は自分の手中にあるペンで、あらゆる負の出来事をプラスに変え、自分というものの存在意義を再認識することができる。

 

勝つ事は出来ないまでも、生き続ける事はできる。

 

たしかに、そう思ったのだった。

デラシネ    ECHOES 

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詞・曲 : 辻仁成

デラシネ

デラシネ

  • ECHOES
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Dear Friend

Dear Friend

 

エコーズのアルバム中、私が最も愛する6th アルバム 。ヒット曲「ZOO」や「デラシネ」などを収録。

 

私自身の、内なる辻仁成との出会いが、その後の私の、新たな闘いの始まりとなった。

 

敵は、内外に大勢いた。

 

芸術家として人に抜きん出、ミューズの愛を独り占めし、高みに昇りつめようとする異端児には、必ず襲い掛かる、孤独と不安、そして恐怖。

 

身を落ち着ける場所のない、根無し草の心。

 

いびつな存在として浴びせられる、世間の辛辣な悪態や轟く罵声。

 

いくつもいくつも現れては消える、栄光という名のまぼろし。

 

それらをねじ伏せて、歩みを進めて行く事の困難な所行。

 

SILVER BULLET

SILVER BULLET

  • ECHOES
  • ロック
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それからの私は、一般のモラルに従って生きる人々の感じようもない、目の眩むような歓喜や陶酔にも遭遇したが、一度転落すると這い上がりようのない、挫折と失意をも味わう事になった。

 

それが、真理という名の悪魔に魂を売ったドクトル・ファウストの叙事詩や、フランス中世の盗賊にして大詩人、フランソワ・ヴィヨンの捧げるがごとき遺言書となるのだ。

 

それを語るのは、私自身にとってあまりに残酷だが、それが芸術家の宿命である。

しかし、ここがその場所ではない事は確かだ。

 

私は、作品によって、読者諸氏に自己の身上書を提示するよりほかに道はない。

いつの日か、それが叶えられん事を。

 

私は、走り続ける。

 

カッティング・エッジ