MIDNIGHT HERO

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ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演、映画「PERFECT DAYS」。「平山さん」に憧れて。

PERFECT DAYS

こんばんは。デラシネ(@deracine9)です。

本日は、映画「PERFECT DAYS」について、語ろうと思います。

 

この作品で役所広司は、カンヌ映画祭で日本人2人目となる、

最優秀主演男優賞(Best Actor)を受賞しました。

「平山さん」に憧れて。

このフィルムは、「平山さん」の生活の一部を切り取ったもの。

もはや、私にとって映画とは呼べません。

 

平山さんは、私の憧れそのものです。

 

数日に一度は、平山さんに会いたくなります。

もう数十度、平山さんと同じ時間を共にしました。

 

それでも、また会いたくなります。

日々の暮らしの中で、あ、今の自分は平山さんだ、と折にふれ思います。

 

平山さんの生活は、魅力的です。

その人物もまた然りです。

 

このフィルムで流れる音楽は、平山さんが日頃聴いているカセットテープだけ。

最初の曲です。

 

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「平山さん」の生活は、十のうち十。

朝まだき、ご近所のお年寄りが道を掃く音で、目が覚めます。

布団を畳み、台所で歯みがきをし、髭を剃り、身だしなみを整えます。

 

それから、部屋で育てている苗木に霧吹きで水をやります。

愛でている鉢は、苗木専用のちゃぶ台に、ところ狭しと並んでいます。

 

それが終わると、仕事へ出かけます。

平山さんは、公共トイレの清掃員です。

 

「The Tokyo Toilet」のロゴが入った作業着に身を包むと、古い木造アパートの階段を降り、携帯や車の鍵などをポケットに入れて、扉を開けます。

 

外に出て、空を見上げる平山さんは、穏やかな笑みを浮かべます。

おのれの生活を愛しんでいる人にしか、できない表情です。

アパートの横にある、今にも壊れそうな自販機で、缶コーヒーを買います。

それから、目の前に停めている清掃用の作業車に乗り込み、缶コーヒーをひと口すすり、移動中に聴くカセットテープをセットします。

 

まだ街灯が灯る薄暗がりの路地を通って、仕事場へ向かいます。

ハイウェイを抜け、いつもの場所に駐車すると、平山さんの表情はピリッと引き締まります。

 

平山さんは、プロの仕事をします。

そのルーティンは、剣豪の鮮やかな剣捌きを見ているようです。

 

いつもの公園で、いつものホームレスの男性が踊っています。

仕事の合間に見かけるその人を、畏敬のまなざしで見つめる瞬間があります。

 

 

お昼時は、小高い場所にある神社の、広い境内で過ごします。

コンビニで買ったサンドイッチと牛乳で、お昼を済ませることが多いようです。

 

境内には、いつもここでランチをするOLさんや、いつもは見慣れないおばさんなどと出会います。

 

石造りのベンチから見上げると、多くの樹木のあいだから、木漏れ日のさざめきが空を覆っています。

平山さんは、家から持ってきた旧式のカメラで、木漏れ日を写真に収めます。

 

平山さんが育てている苗木は、ここの樹木の根元に芽吹いたものなのです。

 

仕事を愛し、そこでふれ合った人びとを愛し、木々を愛し、木漏れ日を愛する平山さんの生活は、まさにパーフェクトな日々なのです。

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寡黙のうちに、仕事を終えた平山さん。

 

アパートに帰り着くと作業着を脱ぎ、自転車で銭湯へ向かいます。

店を開けたばかりの銭湯の湯舟は、まさに天国に居る心地。

 

雨の日も、平山さんはルーティンを変えません。

 

アパートから近い、浅草駅の地下通路沿いにある居酒屋が、毎晩通う行きつけです。

店は入り口もなく、テーブルからは地下鉄の改札口を行き来する人の流れが見て取れます。

 

椅子に腰掛けるなり、若い男の店主が、お帰りーと声をかけてくれます。

それから、お酒とツマミを持って来て、おつかれサーンと両手を開いたポーズをしてくれます。

 

居酒屋で至福の時を過ごして帰宅した後は、布団の中で読書に耽ります。

読んでいる本は、古本屋の百円均一の棚から選んだ文庫本。

 

これらの本を読むうちに、いつのまにか寝落ちするのです。

こうして、平山さんの一日は過ぎていきます。

 

フォークナー「野生の棕櫚」。

幸田文「木」。

パトリシア・ハイスミス「11の物語」。

 

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フィルムは、平山さんの過去を語らない。

ここまで、平山さんの一日をお話ししました。

 

下町の古い木造アパートに住み、日々を公共トイレの清掃員として働く生活。

 

平山さんは、こうして淡々と日々の営みを繰り返していくのです。

 

ですが、このフィルムは、最後まで、平山さんがいかにして、この生き方を選び取ったのかは何も説明してくれません。

 

平山さんの過去を探る鍵は、前半にも幾つか手掛かりらしきものはあります。

 

平山さんがたくさん持っているカセットテープ。

そして、古本屋から買ってくる文庫本。

紳士的で優雅な立ち居振舞い。

 

カセットテープは、プレミアがついて現在は高額になっていますが、平山さんの若い頃だって、2、3千円はしたはずです。

 

これらは、平山さんがある程度、高い教養を備えるに値する、裕福な家庭環境で育った事を思わせます。

 

では、なぜ平山さんは、このような生き方を選んだのか?

後半には、そのヒントとなる人物が、二人、登場します。

そのうちのひとりは、平山さんの妹です。

 

「本当に、トイレ掃除してるの?」

運転手付きのレクサスで現れた妹は、平山さんにそう問いかけます。

過去の平山さんとは、別人であることが、ここで明らかになります。

 

「昔、好きだったでしょ?」

と言って、鎌倉紅谷の「クルミッ子」をお土産に手渡します。

 

のちのインタビューで、ヴィム・ヴェンダース監督は、平山さんが裕福な環境で生きていたビジネスマンだっただろうと語ります。

 

では、なぜ平山さんは、それを捨てたのか?

 

その答は、平山さんの現在の生活の中にあります。

「木漏れ日」だけが、平山さんを幸福にしてくれる存在だと気付いたのです。

PERFECT DAYS

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人間は生きていくために、いくつかの選択肢の中から、どの道を行くかを選んで生きているはずです。

 

しかし、実際のところ、現実的な選択肢はそれほど多くはありません。

人間は、家族や友人や生まれた環境や価値観などの様々なしがらみの中で生きているからです。

 

平山さんのように、愛すべきものを選び取って、その代償を代償とも思わずに生きていくことは、大変難しいことです。

 

だから、平山さんに憧れるのです。

 

凡人は、多くのしがらみから抜け出して生きることは難しい。

平山さんのように、多くを捨て去って生きていける人は、そう多くはいないはず。

 

しかし、平山さんのような生き方を選んだ人にも、過去の代償は大きくのしかかってくることがあります。

 

フィルムの後半、平山さんが見せた涙が、そのことを物語っているように思います。

 

ですが、この生き方を選んだことに、最後まで、後悔はしていません。

むしろ、感極まった歓びの涙なのかもしれないのです。

 

平山さんは、無言のうちに、そう語ってくれているように思います。

 

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「平山さん」を取り巻く人びと。

人間関係という視点で、平山さんの生活を考えてみます。

 

平山さんは、ひとり、外で仕事をします。

仕事で主に接するのは、シフトが重なるときの同じ清掃員の後輩、タカシくらいです。

 

タカシは、平山さんとは対照的に、いい加減なところがあります。

洗面台を拭きながら、片手ではスマホを見て笑っています。

 

モテなくて、いつもグチを漏らしているような男です。

ようやく彼女ができたと思えば、ガールズ・バーの女の子。

 

10ドルの恋です。

 

タカシは、ずいぶん平山さんにワガママを言います。

平山さんは、何度もタカシに引っ張り回されますが、許してしまいます。

 

自分とは違っていても、人を見る目が優しいのです。

タカシを除けば、平山さんを取り巻く人間関係は、自身が望んだ人びとだけと気づきます。

 

居酒屋の店主。

木漏れ日を撮ったネガを出す写真屋。

古本屋の店主。

休日に通うスナックのママ。

 

こんな生き方ができたなら、と思います。

 

人間関係で悩み抜いている人は、平山さんを手本にすればいいと思います。

 

それで死んでしまったりするくらいなら、平山さんのように生きればいいのです。

そうしたら、木々の妖精であるホームレスの男性も、姿を現します。

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「平山さん」を巡る小さな冒険。

平山さんの生活は、同じ事の繰り返しのようにみえます。

ですが、平山さんはそう思ってはいないと思います。

 

日々が新しく、二度とは訪れない今日を、愛しみながら生きています。

そうでなければ、早朝、アパートの扉を開けた時の、あの笑顔は無いでしょう。

 

毎日が違っていることは、あの神社の境内の、木漏れ日だけを見てもわかります。

 

この瞬間の、光と影の綾なす模様は日日刻刻と移ろい、同じ模様は二度と現れません。

だから、平山さんは境内を訪れるたび、写真を撮るのです。

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平山さんの生活にも、小さなたくさんの冒険があります。

 

清掃中のトイレで、おかしな紙片が隙間に挟んであるのを見つけます。

 

そこには、三目並べ(注)の最初の○が書いてあります。

【(注)「井」の字に○と✖️を交互に書いていき、三つ並べた方が勝ち。】

 

最初は、屑入れに放り込む平山さんですが、車を出す前に思い直し、紙に✖️を書いて、元の場所に戻しておきます。

 

次の日紙を開いてみると、次の○が。

こうして相手が誰だかわからないまま、ゲームは続き、引き分けに。

ゲームの終わりには、「Thank You 」の文字が書いてあります。

 

気持ちにゆとりがないと、こんな遊び心は生まれないでしょう。

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また、こんなことも。

 

いつもの境内で、お昼を食べている平山さん。

少し離れた石の腰掛けには、いつものOLさんがご飯を食べています。

 

いつもは平山さん、軽く会釈をするだけで終わるのですが、その日に限っては、女性は平山さんから視線を外そうとはしません。

 

声無き声は、いつになったら私を誘ってくれるの、とツレない非情を訴えかけて来ます。

慌てて視線を逸らし、目を白黒させる平山さん。

 

寡黙な平山さんは、狼狽の表情を浮かべ、ただ困惑するばかりなのです。

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平山さんを描いた一幅の絵画。

ここまで、実在する人物のように「平山さん」の話をしてきました。

このフィルムを観ているあいだは、平山さんが共にいてくれます。

 

そのあと、現実に戻る瞬間が、必ずやってきます。

そこでは、生活の荒野が着飾ることも無く、渺渺たる風をともない、無防備な心を襲います。

 

生活に疲れて、一歩も踏み出せないような自分がいます。

 

そんなとき、ふと、平山さんを思い出します。

朝、起き出して、歯を磨き、髭を剃り、髪を整え、荒野へ立ち向かう平山さんは、その入り口で満足げな表情を見せてくれます。

 

このフィルムは、いつまで眺めていても美しい。

貧しい心のうちに、ずっと飾っていたくなる一幅の絵画のようです。

Brown Eyed Girl   Van Morrison 

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Brown Eyed Girl

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生活の細やかな喜び、新たな美の発見をもたらす映画。

私は、この映画を観て、たくさんの気づきを得ました。

 

生活の些細な事柄に、喜びを見出す生き方。

気づかなかった、日々の風景にある美しさ。

 

平山さんの真似をしていると、たくさんの発見があるのです。

 

この映画を観て以来、私はトイレ掃除が苦にならなくなりました。

 

木漏れ日の写真をスマホで撮っているうちに、木々のシルエットの美しさに、見とれる自分がいました。

 

ふつう公園に行くと、多くの人は、鮮やかに開いた花弁にカメラを向けています。

 

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しかし、樹木の美しさはそれだけではなかった。

根元から伸びた幹の先にある枝ぶり、木々ごとに異なる繊細な光彩と陰翳。

 

ストーリーを措いても、新たな価値観や美的感覚を知らしめてくれる。

 

これが本物の、映画芸術なのかと思います。

 

ラストシーン、新たな感動が、観ている者に押し寄せます。

Feeling Good    Nina Simone  

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あとがき

この映画は、UNIQLOの柳井康治さん発案の個人プロジェクト「The Tokyo Toilet  」に始まりました。

 

その柳井さんが、電通の高崎卓馬さんに、公共トイレについての意識をどうアピールするかを相談したことで、試行錯誤の結果、最終的にこの映画の企画・発案に至ったということです。

 

ヴィム・ヴェンダース監督の力量、

役所広司さんの魅せる演技力、

高崎卓馬さんの企画力。

 

それは素晴らしいものでした。

その他、この映画の制作に携わったすべての人びとに、

さらなる賞讃の拍手が送られんことを願って、稿を終えたいと思います。

 

The Tokyo Toilet

The Tokyo Toilet