こんばんは。デラシネ(@deracine9)です。
「あまちゃん」ファンの皆さま、大変長らくお待たせいたしました。
今回は、おらの「あまちゃん」論 PART 2 をお送りします。
まずは、1曲目。
作者・宮藤官九郎の大ヒット・ドラマの主題歌。
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私がクドカンこと宮藤官九郎の作品に接したのは、「あまちゃん」が初めてだ。
「あまちゃん」は、東北と東京の時間と空間を行き来する物語であり、ドラマのヤマ場に東日本大震災を持ってくる、という異例づくめの朝ドラだ。
宮藤の地元がいかに東北であるにしても、あの大災害から2年あまりという段階で、物語をスタートするというのは、いくら天下の朝ドラとはいえ、まず普通のライターであれば多少の尻込みや不安を感じることだろう。
ところが宮藤は、地元である東北を自ら舞台に選んだと、インタビューに答えている。(「MHK ステラ あまちゃんメモリアルブック」参照)
そのうえで、期待をはるかに上回る秀作をものしたのだから、怖るべき才能だ。
NHK の演出家・井上剛の証言によれば(同上「ステラ」参照)、宮藤は2011年末、NHK のスタッフと岩手県久慈市に、2、3日のスケジュールでロケハンに出かけ、帰りの新幹線の中で3時間にわたり、語り続けた。
その時点で宮藤は、全26週の大まかな構成はもちろん、ほとんどのキャラクター、物語のキーとなるエピソード(若き春子が北鉄で大吉に話しかけられて席を移動し、母・夏の大漁旗を振っていた姿を見る事が出来なかったこと、足立ユイが決して北三陸を離れる事が出来ないという宿命、春子が鈴鹿ひろ美の影武者であったこと)などの構想を、すべて頭の中に組み上げていたという。
地元が舞台であり、すでに業界に精通していたとはいえ、これだけの壮大な物語を3日ほどのロケハンでモノにした宮藤の天才は、驚嘆のほかはない。
NHK が、速攻で大河ドラマのオファーを出したのも十分頷ける。
その才能を育んだものは何だったのか、私は「あまちゃん」を観て、そのシナリオを読んだあと、痛切にそう思った。
私は宮藤官九郎なる人物について、まだ何も知らないに等しい。
そこで今回は、私がイメージする、クドカンストーリーを描いてゆく事にする。
(経歴等は、Wikipedia を主として参考にした。)
クドカンと東北と。
宮藤官九郎。宮城県出身。
ビートたけしのオールナイトニッポンのヘビーリスナーで、構成作家の高田文夫に憧れ、高校を出た後、日大の芸術学部へ進学し、上京。
その後、大学は中退し、松尾スズキの劇団大人計画に参加する。
彼の快進撃が始まるのは、この後だ。
ここまでの経歴を見ると、私自身の青春にも、大きく被っている。
世代的には彼の方が若いが、似たような想いを抱き、東北の田舎町で憧れの東京を夢見たことだろう。
東北人と九州人のDNA には、遠い辺境の地から、大都会・東京に抱くコンプレックスがある。
東北の地から東京へやってきた作家には、石川啄木、太宰治、寺山修司などがおり、九州からは、北原白秋、檀一雄などの作家のほか、東京へ向かった多くのミュージシャン、役者がいるが、みなが同様に故郷への愛憎を口にする。
このような感情は、「あまちゃん」の天野春子(小泉今日子)や足立ユイ(橋本愛)にもみられるもので、若き日の宮藤の心情を代弁しているものと思える。
宮藤はそののち、ミュージシャン、劇作家、役者、映画監督と、あらゆる表現者の地位を獲得するが、日大を中退して、まず飛び込んだのは演劇の世界だった。
そこには、福岡から上京して劇団を主宰する松尾スズキをはじめ、似たような境遇の仲間がいた。
大学時代は、友人もいない「地味で暗くて向上心も協調性も存在感も個性も華もないパッとしない」ヒロイン・アキ(能年玲奈)のようだった宮藤は、初めて、ここが好き、と言える居場所を見つけたに違いない。
そこがアキにとっての「北三陸市」の人びとであり、宮藤にとっての演劇の聖地・下北沢の仲間たちであったのだろう。
「場所じゃなくて、人なんだと思うよ」
42歳の天野春子(小泉今日子)が、足立ヒロシ(小池徹平)に言うセリフがある。
まさしく、そうなのだ。
地方には、演劇を観る人もいなければ、演る人もいない。
観る場所も、演る場所もないのはその次だ。
だから、演劇人の聖地は、東京しかありえない。
東京ならば、年中どこかの小屋で芝居が掛かっているが、地方では高校の演劇部が年に一度の文化祭で、体育館で演る程度。
食っていけない職業のNo. 1が、演劇界であるという事は、地方ではガチガチな鉄の常識なのである。
今では、北九州市などのように、現代演劇に力を入れている都市もないわけではない。
しかし、それもまた、悲しいほどのレベルでしかないのが実情だ。
少なくとも、こと演劇に関しては、今も昔も完全無欠な東京一極集中は、如何ともし難いのだ。
地方の演劇青年は、悲しいよ。
いくら好きでも、それを語り合う友さえいないのだから。
どこで誰に出会ったら、夢が叶うのか?
結局、上京するしか道はない。
故郷を捨て、親を捨てると腹をくくれば、吉祥寺や下北沢という場所の心当たりはつきやすかった。
そこで生活して劇団に入り、一目置かれる存在になれば、おのずと業界人との人脈も作れたであろう。
「あまちゃん」で、アイドルを夢見る10代の天野春子(有村架純)が、はかない噂を信じて、「ここの横断歩道の前で信号待ちしていれば、スカウトされる」と佇んでいた街角は、手で雲をつかむような幻の時空であった。
その後も若き春子は、夢と現実の境界線を彷徨い続ける事になる。
下北沢では最もメジャーな本多劇場前。
「ザ・スズナリ」「シアター711」前。
「 劇・小劇場 」横の小劇場公演ガイド。
下北沢 小劇場マップ。
「あまちゃん」のキャスティングを見ると、当然ながら、宮藤のキャリアに密接に関わってきた人物が目白押しだ。
メインキャストを支える名脇役には、東北出身で劇団関係者が圧倒的に多い。
渡辺えりは山形県出身。かつては劇団を主宰し、「ゲゲゲのげ」で岸田國士戯曲賞を受賞した。
木野花は、青森県出身。「劇団青い鳥」を結成し、アングラ演劇ブームの中心にいた。
吹越満は、青森県出身。かつて劇団「WAHAHA 本舗」に所属。
宮本信子、蟹江敬三、塩見三省は、いずれも劇団出身の名優だ。
そして、宮藤の所属する「大人計画」の創設者の松尾スズキ、荒川良々、皆川猿時、伊勢志摩。
大人計画の役者仲間であり、バンドメンバーでもある「グループ魂」の村杉蝉ノ介。
古田新太、片桐はいり、菅原大吉らも、舞台を中心に活動してきた盟友だ。
劇団出身者は、這い上がるまでの苦労が一筋縄ではないだけに、強い連帯感で紐帯される。
それが「あまちゃん」制作の現場に好影響をもたらした事は間違いない。
しかも、ドラマの重要な舞台は東北であり、宮藤官九郎の脚本、時代的にはあの震災が描かれるとなれば、否が応でも結束は増すだろう。
2曲目。
現在進行形の朝ドラ「半分、青い。」で、秋風詩織(豊川悦司)の弟子でヒロイン・鈴愛(永野芽郁)の親友・小宮裕子(清野菜名)が好きな曲。
You May Dream シーナ&ロケッツ
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漫画家を卒業し、秋風ハウスから引っ越しをする途中、鈴愛と裕子、ボクテ(志尊淳)が、この曲を歌って跳ねまわる回のラストシーンがじーんと来た。
クドカンドラマのツボ。
宮藤官九郎らしさといえば、誰しも口にする「おもしろい」「笑える」。
この「面白さ」「笑い」とは、いったいどこからくるのか?
80年代、宮藤はビートたけしのオールナイトニッポンを聴いていたと、Wikipedia にあった。
オールナイトニッポンというのは、深夜の4時5時まで起きていても、翌日平気で学校に行ける、中高生がメインリスナーだ。
たけしがパーソナリティをやっていた頃、私はもうその時期を過ぎていたが、何度か聴いて、そのアバンギャルドな笑いに驚嘆した事を覚えている。
そこで感じたのは、この番組は、たけしがおもしろいというよりは、たけしが若いリスナーから寄せられる、抱腹絶倒のハガキの数々を読みながら楽しんでいる、という構図だった。
たとえば、演歌の大御所・村田英雄をネタにイジるコーナーでは、嘘かマコトかわからない村田英雄の所行をリスナーがハガキに書いて寄こす。
ツボにハマると、それを読み上げるたけしも、しゃべりながら大ウケにウケており、聴いている側もそれに乗せられて、こみ上げる笑いを如何ともし難いのであった。
ビートたけしのオールナイトニッポンとは、さながらたけしを師匠とする、リスナーによるリスナーのためのお笑い道場であり、 出したハガキへのたけしのリアクションを確かめたくて、またネタを作ってはハガキを書くといった番組だった。
しかし、それを番組として成り立たせるものは、番組の名物コーナーを生み出す、企画力、構成力あってのものである。
番組のヘビーリスナーであったという宮藤が、パーソナリティのたけしよりも、番組にもしばしば登場する放送作家の高田文夫に憧れたというのも、実に興味深い。
宮藤も当然ハガキを書き、天性のコメディセンスに磨きをかけただろうが、むしろ彼は笑いの仕組みを創り出す仕掛け、カラクリの方を志向したのだ。
宮藤のライターとしての本領は、その抜群の発想力と企画力、構成力にある。
そのうえ、オーソドックスな王道をゆく作劇術を体得しているからこそ、その面白さは重層的で、北三陸の琥珀のごとく、掘っていけばいくほど、その作品は我々を魅了してやまないのだ。
次の曲。
「K 3NSP」。すなわち「北三陸をなんとかすっぺ」委員会は、北三陸市首脳による町おこし会議の名称。
この中に「NSP 」の文字がある。
これは、天野滋の NSP ではないか、などと想像してしまうのである。
彼らも東北・岩手県の出身であるのだ。というわけで、N.S.P。
北北東の風 N.S.P
北北東の風 歌詞【NSP】 | 歌詞検索UtaTen(うたてん)
この動画は、「北北東の風」(青春のかけらたち )バージョン。
シングルバージョンより断然良い。下のアルバムに収録。
それにしても、宮藤官九郎という男は幸せなヤツだ。
若き日に憧れたオールナイトニッポンで、今や現実に自分がパーソナリティをやっているわけだから。
夢をとことん実現している、奇跡の人物だ。
だけども、スターダストの気持ちも、きちんとわかっている。
それが「あまちゃん」の大きな要素にもなっている。
この続きは、次回やりましょう。
今回は、東北、演劇、深夜放送をキーワードに、宮藤官九郎のルーツを辿る、「おらの『あまちゃん』論 PART 2」をお送りしました。
クドカンのコアなファンの皆さんには、クドカンってこんなヤツじゃないよ、みたいなご意見は多分にある事と思いますが、これはあくまで現在地点での、私的宮藤官九郎論でありますので、ご寛恕願います。
そして、クドカンってホントはこうだよ、みたいなご指摘がありましたら、どしどしご教示願いたい。
「あまちゃん」をキッカケに、私もクドカンワールドに足を踏み入れた一ファンでありますから。
それに、宮藤官九郎氏も、私と同じく脚本家の山田太一さんを大いに敬愛する同志でもありますゆえ。(ここまで、敬称略しました。)
まだ、「あまちゃん」論は、続きそうです。
次回こそ、「あまちゃん」の物語分析に入ってゆくつもりです。
PART 3 を乞う御期待。