こんばんは。デラシネ(@deracine9)です。
本日は、シブい硬派な歌、と題してお送りします。
それでは、1曲目。
これは、「刑事物語」という武田鉄矢が原作・脚本・主演の映画の主題歌。
唇をかみしめて 吉田拓郎
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この映画の封切は、1982年。
武田鉄矢が吉田拓郎に曲を依頼したのだが、詞も拓郎が自ら書くと鉄矢に言い、この広島弁の歌詞が生まれたそうだ。
古風で、人情味溢れる、風采の上がらぬ刑事をモチーフに、バンカラな男の友情を歌って、これぞ拓郎節全開の、拓郎自身も快心作と認める歌。
この頃の拓郎は、さっぱり売れてなかったようだが、バブル崩壊へと突き進む浮かれた時代にあって、これは必然と言えたかもしれない。
アメリカを押しのけて、世界一の経済的繁栄を手にした日本の若者たちは、モノとカネがあふれる世相の中で、辛気くさい男の友情の歌などには見向きもしなかったのだ。
オマエ、ヨシダタクロウなんか聴いてんの、井上陽水ならともかく、と話す男の会話を、実際聞いたことがある。
その年、一番売れていたのは、「君を抱いていいの」と歌っていたオフコース。
泥臭く無い、クリアな小田和正の歌声と洗練されたメロディで、解散か否かという話題性も拍車をかけて、絶頂期にあった。
とはいえ、吉田拓郎は「新人類」と呼ばれた若者に受けなかっただけで、日本のシンガーソングライターの草分けであり、まったく別格の存在だったから、時代に歓迎されずとも十分勝負ができた。
当時の拓郎は、今年のライバルはオフコースだ、なんて対抗心を燃やしてたし、まったく音楽的にも、枯れてはいなかった。
コアなファンは、しっかりとついていた。
当時放送の「素晴らしき仲間」。武田鉄矢と吉田拓郎の爆笑対談。
拓郎は武田鉄矢の映画「Ronin 」に高杉晋作役で出演。
武田鉄矢はもちろん坂本龍馬役で、ふたりは共演した。
分野は違うが、その頃の吉田拓郎は、「鉄腕アトム」「ジャングル大帝」などで一世を風靡したあとの、漫画家・手塚治虫に似ていた。
手塚ブームが去り、自分が立ち上げたアニメーション制作会社の虫プロダクションが倒産し、漫画の世界では劇画ブームや妖怪漫画ブームに圧され、過去の遺物とみなされるような、曰く「冬の時代」。
漫画の神様と呼ばれる手塚治虫さえ、そんな時期を経験している。
しかし、そんなときでも、手塚は「火の鳥」を始めとする素晴らしい作品を創造していた。
1973年、少年誌で連載した「ブラックジャック」で、手塚治虫は漫画界での完全復活を遂げた。
「冬の時代」。
それは、手塚の才能をもってすれば、一時期の不遇に過ぎなかったと言える。
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2曲目。
シリアス 長渕剛
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この曲は、1992年東京ドームバージョンがすごくいい。
「JAPAN」アルバムバージョンと比べてみると、格段の違い。
ギター1本で、歌い方とテンポ、アレンジを変えると、これだけよくなるのか、という見本のような曲だ。
シブいです。
歌詞も、なかなか良い。
人生の辛酸を舐めた人間の、吐いた言葉だと言える。
この頃の長渕を、私は知らない。
個人的に、ちょうど社会人になったばかりで、音楽から遠のいていた。
自分の世界を切り拓くことで、手いっぱいだった。
しかし、よかったのだろうな、とは思う。
この曲と、このパフォーマンスを見れば、そう思う。
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3曲目。
Bye Bye My Love (U are the one) サザンオールスターズ
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なぜ、この曲がシブく、硬派なのか?
他のサザンの曲と基本、同じではないか?
知ってる人もいるだろうが、同時代を生きてきた人間としては、これは語らずにはいられない。
1985年。「We are the World」という洋楽が流行った。
当時のアメリカのスーパースターたちが総出演して、「USA for Africa」というオールスターチームを組んだわけだ。
とにかく、アメリカのスーパースターはすべて参加したと言ってもいい、アフリカのチャリティ・ソングを作って、全員で歌った。
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作曲はマイケル・ジャクソンとライオネル・リッチー、プロデュースがクインシー・ジョーンズ、それぞれのパートでリードヴォーカルをとったのが、またすごい。
今でも有名どころの、スティーヴィー・ワンダー、ダイアナ・ロス、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、ビリー・ジョエル、レイ・チャールズ、ポール・サイモン、シンディ・ローパー、マイケル・ジャクソンなどなど、とにかくすごい。
そのアンサーソングとして桑田佳祐が作ったのが、副題にあるとおり「Bye Bye My Love(U are the one)」この曲。
桑田君は、ときどきすごく、ロックンローラーすることがある。
己れが、足元にも及ばない存在であるにもかかわらず、そいつに噛みつく。
このメンツが、世界はひとつ、なんて歌ってるときに、オマエはひとりぼっちなんだ、いいことだよね、You are the one、なんて堂々と刃向かうわけだから、根性ある。
そこが、硬派な、桑田佳祐の一面でもあるわけだ。
だから、この曲は、シブい、硬派な曲と言えるのだ。
桑田君は、お道化が好きなんだと思う。
カッコだけの、スーパースター気取りな野郎、鼻持ちならない、見せかけの権威主義者なんかを見ると、茶化したくなる。
お道化者の、寅さんやチャップリンなんかが、彼の底流にある。
彼らお道化者にかかれば、ふんぞり返った野郎は阿呆に見えてしょうがない。
だから、権威ある紅白歌合戦に出ると、三波春夫の格好をしたり、ヒトラーかチャップリンかよくわからないチョビ髭をつけて歌ったりする。
実は、とてもシャイな人、太宰治的に言うと、含羞の人なんだと思われる。
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石橋凌、曰く「哀しい歌」。
この曲が発表された当時、事件が起こっていた。
東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件。
犯人とされた宮崎勤は、すでに死刑となり故人である。
この曲の歌詞が、当時、この事件の犯人を想起させるとして、NHK で放送禁止となったという。
事実関係はともかく、詞の内容はこの事件に直接言及したものではないと思われる。
むしろ、詞は、その頃から誰ともなく感じていた、時代が生み出す「ヤツ」のような人間のメンタリティを、早々とキャッチしたものだ。
誰が「ヤツ」となってもおかしくない、そんな時代の始まりを告げる歌だったと思えるのだ。
今、この詞を聴いて、現代を歌ったものだと言われても、なんら違和感がない。
石橋凌の詞は、社会と個人、その軋轢(あつれき)を歌うという視点を持った、本物のロッカーのものだ。
それから8年後、あの「神戸連続児童殺傷事件」通称「酒鬼薔薇聖斗(さかきばらせいと)事件」が起こる。
このような事件に遭遇したとき、大事なのは、あいつは特別なやつだから、やったんだ、と切り捨てないことだ。
そのような事件を起こした犯罪者を、普通の感性を持った一般人と切り離し、異常人として片づけない、そういう視点を持つことだ。
人間の心の闇には、誰しも、宮崎勤やサカキバラが住んでいる。
嘘、と思った方。
あなたは、相模原障害者施設殺傷事件、秋葉原通り魔事件、その他の悲惨な事件を、テレビのニュースで見聞きして、なんと思ったろうか?
事件の報道を、心待ちにしている自分がいなかっただろうか?
人間の心の奥底には、理性で防御した良心と合わせ鏡に、はかりしれない暗闇が潜んでいるものだ。
日常の生活の中では顕れないことが、非日常の場面では表面化する。
それが最も端的に顕れるのが、戦争というやつだ。
戦争は、人間の狂気を日常化する。人殺しを正当化し、正義とみなす。
「一人を殺せば犯罪者だが、百万人を殺せば英雄だ。」
そう言ったのは、チャップリンの「殺人狂時代」の主人公だ。
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人間とは何か?
人間性の本質とは何か?
それを教えてくれるのが、文学などの言語芸術なのだ。
現代文学は、言語芸術が担って然るべき、人間性の探究、モラリストとしての使命を、なおざりにしているように思えてならない。
芸術の百花繚乱は結構だが、いささか偏向しているように思える。
事実、音楽と違って、文学は大衆に支持されていない。
いくら高尚で、優れていても、若者に語られるものでなければ、時代から取り残された証拠なのだと思う。
お笑い芸人の作品が一時的にブームを生んだとしても、偶発的なもので終わるだろう。
ブームの背景に、読者の、心底からの人間への関心が見えないからだ。
最早、翳りが見えていると思うのは、私だけだろうか。
読まれているのは、エンターテイメントだ。
あらためて、文学の役割とは何かを問うべきだ。
人間とは何かを。人間はどういうものかを。
かつて、このようなテーマを扱った偉大な作家の代表格が、ドストエフスキーであろう。
日本では、坂口安吾や、中上健次などがいる。
是非、本物の文学に、触れて頂きたい。
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- 作者: 中上健次
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最後の曲。
鋼鉄の魂が、今、必要だ。
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このアルバムには、暑い暑い、夏の調べがギッシリ詰まっている。
1983年夏に、リリースされた。
個人的に、思い入れの深いアルバムだ。
マッスル。
この曲も、やはり夏の歌だ。
この歌詞とメロディーが流れると、私は、そのときの暑い夏の出来事を思い出す。
オレたちの愛には、鉄の魂がいる。
鋼鉄の魂が。
そして、これから幾春秋繰り返される時の流れに、必要となるのだ。